[SP4-3] 脳波所見から考える自閉スペクトラム症の行動異常
【神経発達症における脳波検査の意義】自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如多動症(ADHD)などの神経発達症では、行動観察を主とした診察や詳細な問診によって診断がなされ、診断のためのバイオマーカーが未だ確立していないのが現状である。しかしながら、ASDやADHDでは脳波異常を認める頻度が高く、てんかん合併例が多く存在することが知られている一方、行動異常を有する小児では、けいれん発作の有無如何によらず、脳波上てんかん性突発波を呈し、行動異常に対し抗てんかん薬が症状の改善に有効な症例が一部存在するとも報告されてきている。神経発達症とてんかんは脳波所見を通して診断や治療において相互に重要な疾患であると推察され、神経発達症において他の医学的疾患を除外する目的や病態を考える上で脳波検査は重要な医学的検査と言える。【行動異常から見た神経発達症とてんかん】ASDなどの神経発達症の病態には前頭前野が関連していると想定されているが、一方でてんかん児における行動異常においても、前頭前野との関連が推察されている。高度な脳波異常を有するてんかん児ではASDと類似した行動異常を認めることがあり、これらのてんかん児では前頭前野の成長障害が認められることを我々は3次元MRIによる体積測定で明らかにした。高度脳波異常などのてんかん難治化が前頭前野の成長障害を惹起し、行動障害がもたらされている可能性が示唆され、また、脳波異常を改善させることで行動改善へ繋げられることが神経発達症およびてんかん児の両者で確認されていることから、神経発達症とてんかん児における行動障害において病態としての共通の基盤が推察される。【てんかん性突発波から考えるASDの行動異常】ASDにおける脳波異常との関連では、てんかん性突発波の焦点部位に関して検討されてきている。21名のASDに対して行った脳波所見の経時的変化で、11名でてんかん性突発波の出現を認め、うち6名が前頭部焦点であった。さらに、てんかん合併ASD児に対して抗てんかん薬投与を行い、発作・脳波所見と行動改善との関連を検討したところ、前頭部突発波を有するASD児では発作抑制・脳波改善に伴い、行動異常も改善する一方で、他部位に焦点を有する症例では行動改善を認めないことが確認された。また、ASDとてんかんはグルタミン酸の関与という病態としての共通の基盤が想定されているが、AMPA型グルタミン酸受容体拮抗薬の投与により、前頭部突発波が改善したてんかん合併ASD児では行動改善を認めることも確認されている。以上の結果より、ASDにおける前頭部突発波はその病態(行動異常など)と関連性を有していることが推察された。【まとめ】ASDの行動異常と前頭部突発波との関連が推察され、ASDの行動異常に対して、前頭部突発波などの脳波所見を鑑みた対応が重要である。