50th Memorial Annual Meeting of Japanese Society of Clinical Neurophysiology (JSCN)

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サテライトシンポジウム

サテライトシンポジウム1 磁気刺激の臨床応用と安全性に関する研究会

Thu. Nov 26, 2020 6:30 PM - 8:30 PM 第2会場 (2F B-1)

座長:藤原 俊之(順天堂大学大学院医学研究科リハビリテーション医学)

[SS1-1] EEG-TMSによる脳活動状態の評価と操作

武見充晃1,2 (1.東京大学大学院教育学研究科, 2.科学技術振興機構さきがけ)

一次運動皮質へのTMSによる運動誘発筋電位(motor evoked potentials, MEPs)解析は,運動関連の脳機能研究で広く用いられている.MEPは,TMSの刺激回数や刺激間隔に応じて一次運動皮質の様々な機能を表象する.単発TMSの場合,MEPは皮質脊髄興奮性を表す.二連発TMSでは,単独ではMEPを誘発しない弱い条件刺激の後,MEPを誘発する試験刺激を与えると,その刺激間隔が1-5 msの場合はMEPが減少する.この変化は短潜時皮質内抑制と呼ばれ,抑制過程にはGABA-A受容体を持つ抑制性介在ニューロンが関与している.刺激間隔が8-30 msの場合はMEPが増大し,これは皮質内促通と呼ばれる.しかしこれらの一方で,MEPではTMSによって筋収縮が誘発されない脳領域の機能は評価できない.
そこで一次運動皮質以外の脳領域の機能評価には,TMSによって誘発される脳波電位(TMS-evoked EEG potentials, TEPs)解析がよく用いられる.TEPは,その潜時が異なる神経活動を表象することが知られており,例えば刺激から100 ms後に現われる陰性電位はGABA-B受容体を持つ抑制性介在ニューロンの活動を反映する.あるいは複数の脳波電極から計測されるTEPの時空間的な変化に基づいて,脳機能ネットワークの状態を推定することもできる.しかし脳波信号は105個以上の神経細胞のシナプス後電位の総和に起因するため,TEPの解釈はMEPほど単純ではない.そこで発表前半では,TEPを脳機能研究に用いる際の計測・解析・考察上の注意点を説明する.
発表後半では,脳波変化に基づいてTMSのタイミングを調節するEEG-triggered TMSの実施例を紹介する.EEG-triggered TMSは,時間分解能に優れた脳波をTMSと組み合わせることで,所与の脳活動が生じた瞬間に皮質を刺激することを可能にする.その第一の利点は,一瞬だけ生じる脳活動の機能を明らかにできることである.例えば運動課題にともない脳波の振幅減少(Event related desynchronization: ERD)が生じることが知られているが,この減少量と皮質脊髄興奮性や皮質内抑制・促通がどのような関係にあるかを明らかにすることができる.第二に,repetitive TMS(rTMS)のような介入による脳機能修飾効果の再現性を高められる可能性がある.rTMSはその効果の再現性の低さが課題となっており,その原因の1つとして刺激を与える直前の脳活動状態が毎試行ばらついていることが考えられている.常に一定の脳活動状態(例えば同じERD量)でrTMSを与えられるEEG-triggered rTMSは,介入効果の再現性を改善できる可能性が高く期待されている.