[II-P-043] 発生工学から明らかになったHeterotaxy syndrome発症の分子メカニズムと臨床像、予後との関連について
Keywords:内臓錯位, 心臓発生, 分子医学
Heterotaxy syndromeは発生初期の胎芽の左右軸の決定およびその情報伝達の異常により発症し、心臓および様々な内臓臓器の形態異常を引き起こす。近年の発生工学の進歩により、その発症の分子メカニズムが明らかになってきた。胎生17-18日の胚の正中に位置する原始結節には原始繊毛を有する結節細胞が存在し、その繊毛が時計方向に回転することにより左方向の一定の流れ(nodal flow)を起こす。この流れによってTGF-βスーパーファミリーの成長因子Nodalなどの左側決定因子が左側優位に発現し、その情報が左側板中胚葉における同じく成長因子Lefty2および転写因子Pitx2を介して心臓原基および他の内臓原基に伝達され、原始心臓管が右方へループを開始するとともに内臓臓器の左右が決定される。ヒトのheterotaxyは、左側決定因子であるNodal, Lefty2以外にも、繊毛内の微小管運動タンパクdynein, Nodalの共受容体Cryptic (Cfc1), 成長因子Activin受容体 (Acvr2B)およびGdf1, 転写のtransactivatorであるCited2, 転写因子Zic3などの変異によっても発症する。我々は妊娠マウスの様々な時期にretinoic acidを投与し、E6.5投与では右側相同が、E7.0投与では左側相同が特徴的に発症し、本来左側板中胚葉に限局するNodalおよびLefty2が左右at randomに発現することから、左右の側板中胚葉に決定因子の閾値が存在する可能性を示唆した。このことはheterotaxy患者では内臓臓器の相同性が心臓と腹部臓器など部位により異なる臨床像にも繋がる。遺伝子異常と臨床像との関係では、heterotaxyの原因遺伝子には繊毛の運動異常をきたすものが多く慢性気管支炎や鋳型気管支炎との関連が示唆されるとともに、近年NodalなどのTGFβシグナル伝達系の異常と肝細胞腫瘍との関連が研究されていることも興味深い。Hetereotaxy syndromeの発生メカニズムと病態との関連について総括し、合併病変や予後との関連について考察する。