市民公開講座（LOP）
心疾患患者の社会的自立を目指して - 小児から成人への移行期の諸問題を考える -

[LOP-01] シームレスなトランジション（移行期医療）を目指して
小児期から成人期への移行（トランジション）を考えるにあたって

^○窪田 満 (国立成育医療研究センター 総合診療部)

　小児医療の進歩により多くの命が救われた一方で、慢性疾患を持ちつつ成人する患者さんが増えてきています。移行期＝トランジションとは小児医療から成人医療へと移り変わりが行われる段階のことを指し、そこでなされる医療を移行期医療=トランジション医療と呼びます。転科=トランスファーはあくまでもその中のイベントの一つであると考えています。
　トランジション医療に関して、以前から、解決しなければならない様々な問題がありました。それらを、保護者の問題、成人科医の問題、小児科医の問題に分けて解説します。私たち小児科医は患者さんを手放したいのではありません。逆に私たち小児科医は、このまま成人してからも診ていって何が悪いのかと考える事が多いのです。しかし、その患者さんの未来にとって本当に良い医療とは何か、しっかりと考える必要があります。それが本当の意味での「Patient- and Family-Centered Care（患者と家族を中心とした医療）」なのだと思います。
　小児医療にとどまる事による一番の問題は、患者さんの自立を妨げ、御両親の将来への不安を解決しないままにしているのではないかということです。
　自立できる患者さんにはヘルス・リテラシー（自分の健康に関する必要な情報を自分で手に入れ、理解し、効果的に意志決定を行う個人的能力）を獲得し、自己管理能力を身につけるように援助する必要があります。そして最終的なゴールは、患者さん自身が自分の健康管理に責任を持ち、トランジションの時期を経て成人となることです。
　自立が難しいような障害をお持ちの患者さんの場合には、御家族と何度も話し合い、その患者さんにとって一番良い医療を探すことが重要です。主治医も退職するときが来ますし、御両親も年を取ります。その時にどうしなければならないのかを今から考えることも、トランジション医療だと思います。当院のトランジション外来で、担当医でも専門医でもない私がそのような関わりをさせていただいています。