第55回日本小児循環器学会総会・学術集会

講演情報

シンポジウム

シンポジウム3(I-S03)
胎児徐脈性不整脈の胎児治療とハイリスク症例への対応

2019年6月27日(木) 10:20 〜 11:50 第2会場 (大ホールA)

座長:堀米 仁志(筑波大学医学医療系 小児科)
座長:漢 伸彦(福岡市立こども病院 胎児循環器科)

[I-S03-02] 母体抗SS-A抗体関連胎児心疾患のステロイド治療:積極的使用の立場から

前野 泰樹 (聖マリア病院 新生児科)

キーワード:胎児治療, 完全房室ブロック, 新生児ループス

母体抗SS-A抗体による胎児の心臓合併症は、主に房室結節の障害による完全房室ブロックがあり、そのほか、心筋への障害による心筋炎および心内膜線維弾性症(EFE)がある。抗SS-A抗体による炎症の関与に対しステロイド投与や母体の血漿交換、ガンマグロブリン投与などが施行され、有効性の報告も散見されていた。しかし近年は母体ステロイド投与には有効性を認めないとする報告が多く再考する必要がでてきた。
房室結節の障害を治療するための使用では、房室ブロックの程度が改善した報告は散見されるが、大部分の症例では無効であることが知られている。発見から使用までのタイミングが遅いことが無効の要因とも考えられており、「発症直後」という条件が整う症例であれば「短期間投与」は、現時点でも家族へ提案すべきオプションと考える。
心筋への障害、つまり長期的なステロイド投与の適応について現在最も議論となっている。房室ブロックをきたした症例の多くは心筋障害が多少はあるが、ステロイドを使用しなくても特に胎児水腫へ進行したり心筋症へ進行することもない。長期間ステロイド使用では、胎児の発育や脳への影響と、羊水過小による早期娩出の報告があり、心筋障害が進行する重症症例に限定して使用すべきとも考えられる。しかし現時点で重症化する症例を予測する方法はなく、進行を早期発見するしかない。早期発見後の治療開始で予後が改善できるかの研究はまだない。さらに副作用に関しても、ステロイドの長期投与を副腎形成不全の胎児治療として行った研究論文では、胎児の発育にも発達にも影響は認められておらず、羊水過小の合併症も認められていない。
以上より、現時点では、軽度心筋障害を示唆する所見を持つ多くの胎児完全房室ブロック症例に対し、母体へのステロイド投与はまだ積極的に使用すべきではないかと考えている。