第56回日本小児循環器学会総会・学術集会

講演情報

レジェンドレクチャー

内科系

レジェンドレクチャー02(II-LL02)
先天性心疾患学“曼荼羅”

2020年11月23日(月) 14:30 〜 15:00 Track1

座長:安河内 聰(長野県立こども病院 循環器センター)

[II-LL02] 先天性心疾患学“曼荼羅”

中澤 誠 (総合南東北病院 小児・生涯心臓疾患研究所)

キーワード:EMAPT approach, life cycle, 曼荼羅

先天性心疾患(CHD)が本人家族に与えるインパクトは極めて大きい。初診対応する我々は、その大きさを理解し患者側の求めに応える力が必要である。では、その求めは何か?応える力とは何か?私なりの考えを皆様とシェアしてみたい。
先天性心疾患学は大きく二つの面を持つ。一つはhard面でCHDの医学・医術の習得、他は“ヒト”に関連するsoft面で、ヒト対ヒトの医療には必須である。
Hard面はCHDの診断治療における知識と技術で、それにはEMAPT【Etiology, Morphogenesis, Anatomy, Physiology, Treatment(=元来はSurgeryでEMAPS)】アプローチが基本で、各分野では発生学や循環生理学など学問がCHDの枠を超えて横断的に広がる。更に先天性心疾患学では「発生、発達、成長、再生、老化」のlife cycleの医学知識が必要である。
Soft面では、患者家族が各発達生育段階において遭遇する精神心理的・社会的問題などを理解する必要がある。そのために、対話術、カウンセリング技術、発達精神心理学、社会学、言語学、人生哲学、死生観などの基礎知識・技能が求められる。これらの分野では多くの専門職が関わることになるが、患者家族にとっては当初から関わってきたpediatric cardiologistが大きな支えである。それゆえ我々自身のこれらの分野での素養が求められる。
タイトルにある「曼荼羅」とは、密教の経典に基づいて主尊(大日如来)を中心に諸仏諸尊が集会する楼閣を模式的に描き、壮大な仏の世界像を示したものと言われ、この世界像を読み取ることによって、人は自分の存在についての深い理解に達することが出来る、とされている。先天性心疾患学も、心臓を中心に周囲にそれを深める諸知識を表すと、あたかも“曼荼羅”様である。我々一人一人が夫々の“曼荼羅”を作り上げていけば、ヒポクラテスの「医にして哲を兼るは神なり」に近づけ、患者家族の求めを理解し、それに応えられるようになるのではないか。