[P38-3] 心不全治療の導入後に著明な心機能改善を認めたドキソルビシン心筋症の1例
Keywords:ドキソルビシン, 二次性心筋症, カルベジロール
【背景】アントラサイクリン系薬剤であるドキソルビシン(DOX)による心筋症は、その総投与量に比例して発症率が上昇し、通常、進行性・不可逆性で予後は不良である。【症例】12歳女児。肺転移巣を伴う左上腕原発骨肉腫に対して手術と化学療法によるプロトコールで治療が行われており、DOX総投与量420mg/m2となる5回目投与から3か月後に心不全が顕在化した。多呼吸・倦怠感を認めNYHA分類 III~IV度、胸部レントゲンで心拡大と肺うっ血は著明で脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)1275pg/ml、心エコーでLVIDd 49.2mm(120%N)、LVEF 31%と左室内腔拡大と著明な心収縮能低下を認めた。その後の化学療法を中止し、静注利尿薬とドパミン、PDE-III阻害薬で心不全治療を開始。臨床症状は徐々に改善したがBNPは1722pg/mlまで上昇した。ACE阻害薬とピモベンダン、カルベジロールを段階的に導入し治療開始3か月後にはNYHA II度、BNP 335pg/mlまで改善し退院した。退院前に実施したMRIで、びまん性左室壁運動の低下を認めLVEF 21%、DOX心筋症に矛盾しない所見であった。しかし、その後徐々に心機能は改善し、退院6か月後にLVEF 50%、BNP 30pg/ml、1年後のMRIでも左室壁運動は改善しLVEF 53%であった。退院後2年経過したが再増悪を認めず、運動は制限しているが学校含め日常生活は問題ない(NYHA I度)。BNPは20台で推移しており経過は良好である。【考察】β遮断薬やACE阻害薬は、拡張型心筋症や虚血性心疾患に対する有用な治療選択肢として確立されつつあるが、DOX心筋症においては成人例も含め報告例は少ない。現在、DOX心筋症に対する特異的治療は存在しないが、β遮断薬やACE阻害薬を含む心不全治療により臨床症状と予後が改善される可能性がある。