第56回日本小児循環器学会総会・学術集会

講演情報

デジタルオーラル

肺循環・肺高血圧・呼吸器疾患

デジタルオーラル(II)60(P60)
肺循環・肺高血圧・呼吸器疾患3

指定討論者:柴田 映道(慶應義塾大学医学部 小児科)

[P60-1] 偏食によるビタミンB1不足のため肺高血圧を呈した1例

佐々木 都寛1, 橋本 礼佳1, 小山石 隼1, 三浦 文武1, 山本 洋平1, 嶋田 淳1, 北川 陽介1, 大谷 勝記1, 高橋 徹2, 市瀬 広太3 (1.弘前大学 医学部 小児科, 2.弘前大学 医学部 保健学科, 3.青森市民病院 小児科)

キーワード:微量元素, ビタミンB1 , 肺高血圧

【初めに】飽食の現代において栄養の過剰摂取や偏食による微量元素の不足等が問題視されている.【背景】ビタミンB1(Vit B1)不足に肺高血圧(PH)を合併した症例が散見されるものの広く認識されているとは言い難い.【目的】偏食のためVit B1が不足しPHを呈した1例を経験したので報告する.【症例】4歳男児.発達障害あり.上気道炎症状で前医を受診し,酸素飽和度の低下(SpO2 87%)を認められ,心エコー検査でPHが疑われた.転院時,活動性低下あり,呼吸障害なし,SpO2 93%(酸素カヌラ3L/分),偏食のため微量元素測定(後日にVit B1 11ng/mL(基準値20-50)が判明),心エコー検査で構造異常なし,心室中隔が左室側に凸,右房右室間圧較差64mmHg等を認めた.心臓カテーテル検査は室内気,酸素負荷,Vit B1静注後の条件下で順に測定し,肺動脈圧(PAp)(mmHg)94/40<59>,90/40<58>,82/37<53>,肺動脈楔入圧(mmHg)<4>,<3>,<3>,肺血管抵抗(Rp)(Wood単位・m2)22.3,21.1,19.0,心係数(L/min/m2)1.9,2.1,2.2等を確認.Vit B1不足による二次性のPHを強く疑い,初期治療としてVit B1のみを投与.Vit B1補充後から速やかに心エコー検査で右室圧の低下を認め,Vit B1補充28日後にPAp28/10<15>,Rp3.2を確認.【考察】本症例では心拍出量の増加は認めず,また,酸素負荷よりもVit B1静注で肺動脈圧・肺血管抵抗がより低下した.Vit B1不足によるPHの成因はいまだ不明であり,PH発症のメカニズムを推測するうえで興味深い血行動態を認めた.【結語】どの程度のVit B1不足がPHを呈するのか明確な指標はなく,Vit B1補充のみによる治療効果の予測も困難であり,今後も症例の蓄積が重要である.