[I-SY04-2] 重症多発性末梢性肺動脈狭窄症におけるX遺伝子変異の意義
キーワード:末梢性肺動脈狭窄症, 遺伝子変異, Bedside to Bench to Bedside
【目的】2020年度の本学会において、重篤な多発性末梢性肺動脈狭窄症(PPS)を合併したWilliams症候群(WS)の症例報告を行った。WSに合併するPPSは通常は軽度であるか自然寛解するが、本症例においてはPPSが重症化した。この原因が遺伝学的背景によるものかどうかを検証する。【方法と結果】まずはWSの責任領域(7q11.23)においてホモ変異が生じている可能性、または欠失領域が広い可能性を考慮し、Multiplex Ligation-dependent Probe Amplification法および全エクソーム解析を実施したところ、WSとして典型的な範囲のヘテロ欠失であることを確認した。このためWSの責任領域とは別に重症PPSの原因遺伝子が存在する可能性を考え、全エクソーム解析結果を見直したところ、疾患原因候補としてX遺伝子のrare nonsense variantを同定した。X遺伝子は血管平滑筋細胞の増殖抑制作用および肺動脈拡張作用を有するYの生成に関与しており、さらにX遺伝子は肺動脈性肺高血圧症の疾患原因遺伝子として報告されていることから、このvariantはPPSの原因となりうると判断し、機能解析を実施した。まず、変異型X遺伝子コンストラクトをヒト肺動脈平滑筋細胞に導入したところ、この変異型は野生型X遺伝子と比較して、Yの産生量を有意に低下させることが判明した。また、ヒト肺動脈内皮細胞(hPAECs)に導入した場合には野生型X遺伝子と比較して、細胞増殖能を有意に亢進させることがあきらかになった。患児自身の肺病理検体においては肺内肺動脈内膜の不整な肥厚が認められており、これは機能解析結果を支持するものと考えられた。【結語】X遺伝子変異が肺動脈におけるY産生量低下とhPAECsの異常増殖をもたらし、重症PPSが生じる可能性が示された。Yを補充しうる薬剤が既に存在していることから、この結果はPPSの内科的治療法の創出につながると考え、さらなる機能解析をすすめている。