[I-SY04-4] ヒト動脈管開存症と正常動脈管の遺伝子プロファイリング
キーワード:動脈管, 網羅的遺伝子解析, 心臓神経堤細胞
動脈管が生後に閉鎖するためには、胎児期から始まる血管リモデリングが必要である。この血管リモデリングには、分化型の平滑筋細胞、弾性線維の低形成、内膜肥厚の形成、などの動脈管に特異的な変化が複合的に関与している。これまで、我々を含めた過去の研究では、動物組織を用いて動脈管に特異的な遺伝子発現を報告してきたが、出生後のヒト動脈管開存症と閉鎖傾向を示す動脈管の遺伝子発現の差異は明らかではない。我々は、先天性心疾患の手術時に得られた4名の動脈管組織を解析した。臨床経過から3名の動脈管は閉鎖傾向を認め、1名は閉鎖傾向を認めなかった。組織学的検討では、閉鎖傾向を示す動脈管では動脈管に特徴的な組織像を認めたが、閉鎖傾向を示さない動脈管では大動脈と類似した組織像を呈し、動脈管に特徴的な所見を欠いていた。これら4名の動脈管組織を中膜と内膜肥厚部に分けて、網羅的遺伝子解析を行った。得られた遺伝子データのクラスター解析では、2つのメイン・クラスター(クラスターA:閉鎖傾向を示さない動脈管、クラスターB:閉鎖傾向を示す動脈管)と2つのサブ・クラスター(クラスターB1:内膜肥厚部、クラスターB2:中膜)に分かれた。また、閉鎖傾向を示す動脈管ではJAG1などの心臓神経堤細胞に関連する遺伝子が高発現していた。免疫組織染色でも同様に、閉鎖傾向を示す動脈管においてJagged1および分化型平滑筋細胞マーカーのカルポニンが高発現していた。一方で、動脈管開存症では、ISL1などの二次心臓領域に関連する遺伝子が高発現していた。これらの遺伝子プロファイリングの結果から、“生後に閉鎖傾向を示す動脈管”と“閉鎖傾向を示さない動脈管”では、異なる細胞起源を有する可能性が示唆された。