[I-YB05-1] 乳児特発性僧帽弁腱索断裂の病因についての検討 -当院経験症例からの考察-
キーワード:乳児特発性僧帽弁腱索断裂, 僧帽弁閉鎖不全, 急性心不全
【背景】乳児特発性僧帽弁腱索断裂は,生来健康な乳児が突然に僧帽弁腱索断裂を起こし,僧帽弁閉鎖不全による急性左心不全を呈する症候群とされている.【目的】詳細な病因・病態は未だ不明とされる本症候群について,その考察を行う事.【方法】2016年1月から2020年12月までの当院の診療録から,乳児期に急性僧帽弁閉鎖不全を発症した症例を検索した.その中で臨床経過が乳児特発性僧帽弁腱索断裂と合致した4例について,経過と検査所見を後方視的に評価し,考察を行った.【結果】男女比は1:3で,発症月齢は生後2-7か月,発症時期は3-6月であった.2例は感染臓器不明の先行する発熱を認め,その内1例では病理組織像で腱索のリンパ球浸潤を確認した.1例は胎内から左室内乳頭筋高輝度部位を指摘されており,発症後に無症候性シェーグレン症候群の母体からの抗SS-A抗体移行を確認し,病理組織像で乳頭筋から腱索の石灰化と硝子・粘液様変性を認めた.1例は術中所見で肉眼的に明らかな腱索断裂は伴わず弁破壊が主体であったが,臨床経過が本症候群に極めて類似していた。病理組織像では感染性心内膜炎を疑う弁尖の好中球浸潤を認めたが,細菌・真菌の存在は確認できず,同部位の直接的な感染ではなく誘発された炎症の可能性も考えられた.【考察】先行症状の有無,背景因子,病理組織像はそれぞれで異なった.3例は腱索断裂や弁尖破壊の明らかな危険因子は認めず,感染等を契機とした炎症が病因として疑われた.発症前に左室内乳頭筋高輝度部位を認めた1例では,元々腱索断裂の危険性が高かったと考えられた.各症例で病因の確定は困難であったが,その病因は全くの同一ではないと推測された.【結論】乳児特発性僧帽弁腱索断裂は,今後更にその危険因子や病理組織像を含めて症例を蓄積していく事で,病因によって概念が細分化されていく可能性がある.