第57回日本小児循環器学会総会・学術集会

講演情報

デジタルオーラル

心筋心膜疾患

デジタルオーラルII(P27)
心筋心膜疾患 2

指定討論者:木村 正人(宮城県立こども病院)
指定討論者:犬飼 幸子(名古屋第二赤十字病院)

[P27-6] 胸痛で発症したDucchene型筋ジストロフィーの心筋症の一例

中垣 麻里, 太田 隆徳, 大下 裕法, 鈴木 一孝 (名古屋市立大学 小児科)

キーワード:胸痛, Ducchene型筋ジストロフィー, 心筋症

【背景】筋ジストロフィーは、骨格筋の壊死と再生を主病変とする遺伝性筋疾患の総称であり、中でもDuchenne型筋ジストロフィー(DMD)はジストロフィンの異常により発症し、多くは10歳代に左室収縮能の低下を認め慢性心不全に至る。近年、呼吸不全に対する人工呼吸療法の進歩により生命予後が改善しており、心不全の有病率、死因に占める割合が増加している。このため、心筋障害の進行を遅らせるため早期の治療開始が望まれており、定期的な心機能評価を行うことが必要とされている。【目的】DMDにおける心病変は骨格筋の病変と同様の機序で発症すると考えられるも、心不全症状や脳性利尿ペプチド(BNP)の上昇は著明な心機能障害を認めるまでは出現せず、心不全に対する治療開始判定が困難である。今回、胸痛を主訴に急激な経過で心筋障害を認めた症例を経験し、心筋障害の発症の指標を新たに検討した。【症例】10歳男児。胸痛を主訴に来院し、心臓超音波検査で心機能は正常であったが、心電図でST上昇と血液検査でトロポニンT(TnT)の上昇を認めた。翌日も胸痛とTnT上昇、心電図上ST上昇が持続するため、緊急心臓カテーテル検査を施行した。冠動脈や心機能に異常はなく、心筋生検を行ったところ病理所見で虚血性変化は認めなかったが心筋の変性を認めた。数日後胸痛は改善するも、心臓超音波検査で僧帽弁逆流と心機能低下を認め、心電図で異常Q波が出現しDMDに伴う心筋障害と診断し心不全治療を開始した。【結果】DMD患者で胸痛を伴った急性心筋障害を発症した症例を経験し、TnTの持続的な上昇と心電図変化を認めDMDに伴う心筋症の発症を診断できた。BNPは心筋障害の発症に伴って一時的に上昇を認めた。【考察】経時的にTnTを計測し、心電図異常を確認することにより、心機能障害の発症時期を正確に診断し早期治療が可能となれば、筋ジストロフィー患者の生活の質(QOL)を向上させることができると考えられた。