[P37-3] 長期生存している完全大血管転位 I型の未手術成人例
キーワード:完全大血管転位, 自然歴, 成人
【背景】未手術の完全大血管転位(TGA)の自然歴は不良で、未手術の場合1歳までに低酸素血症、心不全等のため約90%が死亡し、成人まで生存する症例はまれである。今回、心内病変を伴わないTGA I型で、未手術の長期生存例を経験したため報告する。【症例】体重24kgの45歳女性。生後チアノーゼを指摘され、生後2か月時に当院へ紹介、TGA I型と診断された。生後2か月および4か月時にバルーン心房中隔欠損裂開術が行われ、経皮的酸素飽和度(SpO2)は65%から75%に改善した。著明な精神発達遅滞があり、治療による生活の質の向上が見込めないことから手術適応なしと診断された。生後6か月頃から強直性けいれん発作を繰り返し、複数の抗てんかん薬を内服している。また、25歳および31歳時に意識障害、共同偏視を認め、脳膿瘍と診断され、ドレナージ手術が行われた。心外疾患に対する全身麻酔下の手術として、多数のう蝕に対して36歳、42歳時に抜歯、歯石除去を、耳漏に対して36歳、38歳時に鼓室形成、真珠腫摘出術が行われた。チアノーゼ著明(SpO2 70~75%)で自宅および療育施設で寝たきりの生活を送っているが、在宅人工呼吸管理を必要としてない。明らかな不整脈の既往なし。心エコー上、径14mmの心房中隔欠損を介する両方向短絡が保たれ、右室収縮能不全や肺高血圧はなく、房室弁、半月弁逆流は軽度。エナラプリル、ベラプロスト内服で経過観察中。【考察】31歳まで未手術で経過した心室中隔欠損、肺動脈狭窄を伴うTGA III型の報告はあるが、未手術のTGA I型の成人例は報告されていない。心内病変や動脈管の合併がないこと、心房間の両方向短絡が十分あること、体格が小さく日常生活の活動度が低いことが長期生存に寄与していることが考えられた。