[05 バーポー20] 弓射動作における引手の運動学的特性
矢の有無に着目して
弓道では、初心者が動作を習得する際に、矢を用いない練習が行われる。弓道の競技特性から、動作の再現性が必要とされるため、矢の有無に関わらず同じように弓を引くことが重要であるが、そのような観点から弓射動作を検討した先行研究はみられない。そこで本研究では、弓道の初心者を対象に、弓射動作時の矢の有無が右上肢(引手)の動作に与える影響について、運動学的観点から検討することを目的とした。被験者(10名)は、弓歴1~3年の女性とした。課題は、巻藁に対する弓射動作とし、矢の有無を条件とした(矢なし条件、矢あり条件)。2台のハイスピードカメラ(240fps)で動作全体を撮影し、ゴニオメータで右の前腕、手関節の関節角度、ひずみゲージで弓のひずみを記録した。撮影した映像を3次元動作解析し、左右上肢のバランス(引手距離、押手距離、押手-引手距離、弓射角度)、右上肢の関節角度、弓に加わった力を分析した。分析項目に関して、イベント(打起し開始、引分け開始、大三、引分け完了、離れ/終了)および動作局面(打起し、引分け①、引分け②、会)について、条件間の比較を行った。その結果、矢あり条件に対して、矢なし条件では次のような動作の特徴が認められた。弓に加わった力は小さかった。引手距離、押手-引手距離が小さく、弓射時の押手は引手よりも下方に位置しており、弓射角度は大きかった。また、引分け完了時の肩関節および肘関節角度は大きく、前腕の捻りについては回内位にあった。手関節の掌屈度合いは、打起しの局面において大きく、一方引分け②の局面においては小さかった。これらの結果より、初心者では矢が無い場合に矢がある場合よりも、引手で十分に弓を引くことができないことが明らかとなった。上肢の動作については、弓射動作の前半では前腕および手関節に、後半では肩関節および肘関節に矢の有無の影響が現れることが示された。