日本体育・スポーツ・健康学会第71回大会

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スポーツ人類学/口頭発表①

2021年9月9日(木) 11:00 〜 11:40 会場13 (Zoom)

座長:佐川 哲也(金沢大学)

11:20 〜 11:40

[12 人-口-02] ラオス全国伝統スポーツ大会にみられる国民統合政策に関する一考察

*橋本 彩1 (1. 学習院女子大学)

 ラオス人民民主共和国は1975年に共産主義を掲げるパテート・ラオが王国政府を倒して成立した多民族国家である。1975年以前のラオス王国における「ラオス国民」の範囲はラオ民族が中心であったのに対し、王国政府に敵対してきたパテート・ラオは内戦期よりラオ族も含んだ多民族からなる「ラオス国民」を構想し、主張してきた。しかしながら、1975年から長きにわたり各地で起こった反政府勢力の活動には、内戦期に特殊部隊が結成され、王国政府側として戦ったモン族の兵士が多く参加しており、国内の治安は不安定な状態が続いていた。こうしたモン族を含む多民族からなる「ラオス国民」の団結は治安を安定させ、新政府が政策を安定的に実施するためにも最重要課題とされてきた。
 その国民の団結を促進させるための1つの装置として構想されたのが2001年より開催されている全国伝統スポーツ大会だと考えられる。この大会に先んじて1985年より全国スポーツ大会(国体に相当)が開催されているが、そこでは繰り返し「国民の団結」が語られており、スポーツ大会が国民の団結を醸成し、促進する場として構想されていたことがわかる。しかしながら、政府が理想とするラオ族以外の諸民族の参加はそこまで促進されなかったのではないかと推測される。そのため、パテート・ラオ時代より「祖先から受け継いできた美しい伝統」との表現で繰り返し語られてきた各民族における伝統と、パテート・ラオのスローガンであった「諸民族の平等と団結」を実現する場としてのスポーツを組み合わせて、より諸民族が参加しやすい形態の全国伝統スポーツ大会を開催したものとみられる。本大会は2013年の第9回開催で停止をしており、2014年以降は全国スポーツ大会に吸収されたようである。
 本研究では、全国伝統スポーツ大会の展開から国民統合政策がどのような道筋をたどり、停止に至ったのかを考察する。