日本体育・スポーツ・健康学会第72回大会

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体育心理学/口頭発表②

2022年9月2日(金) 16:03 〜 17:05 第1会場 (3号館3階301教室)

座長:田中 輝海(駿河台大学)

16:24 〜 16:44

[03心-口-05] 大学生アスリートのバーンアウトとパフォーマンス低下を予測する心理的要因の検討

セルフ・コンパッションに焦点をあてて

*本郷 由貴1、笹川 智子2、高井 秀明1 (1. 日本体育大学、2. 目白大学)

近年、困難な状況における自己との関わり方に着目した心理学的構成概念として、セルフ・コンパッション(self-compassion: SC)が取り上げられており、精神的適応に繋がる自己との向き合い方の一つとして注目されている。本郷ほか(2019)は、大学生アスリートの競技ストレッサーが自己への怒りを予測し、パフォーマンス低下とバーンアウトをもたらし、SCがこれらの関係を調整するという仮説モデルについて検証を行った。その結果、SCが高いと競技ストレッサーや自己への怒り、バーンアウトが低いこと、またそのことでSCは間接的にパフォーマンス低下を予防する変数になることが示された。本研究では、SCによる介入の有効性が特に高いと考えられるアスリートの特徴について検討するため、クラスタ分析により対象者を類型化し、属性毎の下位分析を行うことを目的とした。A大学体育専攻学生541名に対し、無記名のアンケート調査を行なった。その結果、バーンアウトや心因性のパフォーマンス低下を引き起こしやすいのは「自己への怒りが高く、ネガティブなSCが高い」個人であり、このようなリスクを抱えるアスリートは全体の約2割存在することが明らかとなった。さらには、属性別に検討することにより、女性アスリートは否定的感情を経験しやすく自分に厳しいことや全国大会レベルのアスリートは国際大会レベルのアスリートに比べてメンタルヘルスが悪化しやすく、葛藤を抱きやすい傾向にあることが示された。したがって、これらの属性を持つアスリートにはSCの介入が有効であると考えられる。SCは臨床的介入によって高まることが報告されており(Kirby et al., 2017)、大学生アスリートにアプローチする新たな心理療法として、コンパッション・フォーカスト・セラピー(Gilbert,2010)などの技法を導入することで、バーンアウトおよび心因性のパフォーマンス低下を予防することが可能になると考えられる。