日本体育・スポーツ・健康学会第73回大会

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学校保健体育研究部会 » 【課題B】保健体育授業をいかに良質なものにするか

学校保健体育研究部会【課題B】口頭発表④

2023年8月30日(水) 11:25 〜 12:24 RY204 (良心館2階RY204番教室)

座長:澤江 幸則(筑波大学)

12:10 〜 12:24

[学校保健体育-B-16] 不登校児童生徒の能動的運動参加に関わる要因(ア)

エスノグラフィーに基づく質的検討

*金子 真悠1、澤江 幸則2、齊藤 まゆみ2 (1. 筑波大学大学院体育学学位プログラム、2. 筑波大学体育系)

2021年度に不登校とみなされた小・中学生は24万4940人で増加傾向にある(文部科学省,2022)。その中で齊藤(2006)は不登校児には不安定な対人関係があることを指摘した上で、その回復過程では適切な高さのハードルになる社会活動の場とそれに結びつけてくれる他者の存在の必要性を指摘している。そこで適切な高さのハードルになる社会活動の場となりうる運動場面へ、能動的に活動参加する要因を明らかにすることを目的とした。特に能動的活動参加に影響すると考えた運動有能感(岡沢,1996)に着目し、学校体育のような一斉指導よりも、個に対応し得る個別指導が有効ではないかと仮説を立てるとともに、離職防止に用いられるモチベーション理論のひとつであるERG理論(Alderfer,1969)を基軸に考察することを試みた。そのためにA県にある民間フリースクールに在籍する不登校児5名を対象にエスノグラフィーの手法に基づく参与観察を行った。調査では週1回行った運動場面及びフリースクールでの生活場面について、202X年3月から8月まで計258時間分の観察を行い、逐次フィールドノーツへ記録した。その結果、一斉指導場面では集団同調が求められることから集団場面に対する苦手さがあったが、長く通う子どもを中心に他者を受容する行動が見られた。例えば、活動とは違う課題に挑戦している生徒がいても否定することなく、成功を見守る場面がそうであった。一方、個別指導場面では個々のペースに合わせた活動の展開により、自分の運動に集中することができ、運動有能感の中の統制感が向上する様子が見られた。また、生活場面においてフリースクールがどんな自分でも受け入れてくれるという、安心できる存在により安全な場の役割を果たしていた。つまり不登校児の運動参加にはERG理論のうち、特に他者関係(R)を充足させることが重要であることが示された。