日本歯周病学会60周年記念京都大会

講演情報

医科歯科連携シンポジウム

医科歯科連携シンポジウム1 血管障害/非アルコール性脂肪性肝炎

2017年12月16日(土) 08:20 〜 09:50 A会場 (メインホール)

座長:佐藤 聡(日本歯科大学新潟生命歯学部歯周病学講座)

[CS1-1] 歯周病と動脈硬化性疾患の関連

中島 貴子 (新潟大学大学院医歯学総合研究科歯学教育研究開発学分野)

研修コード:2504

略歴
1990年 新潟大学歯学部卒業
1990年 新潟大学歯学部附属病院研修医
1996年 日本学術振興会特別研究員
1997年 新潟大学歯学部大学院修了 博士(歯学)
1998年 新潟大学歯学部助手(歯科保存学第二講座)
2000年 メイヨクリニック ポストドクトラルフェロー
2005年 新潟大学医歯学総合病院講師(歯科総合診療部)
2012年 新潟大学医歯学総合病院病院准教授
2014年 新潟大学大学院医歯学総合研究科歯学教育研究開発学分野講師
1980年代後半から現在にいたるまで,歯周病と動脈硬化性疾患をはじめとする全身疾患との関連研究は隆盛の一途をたどっている。本シンポジウムでは,歯周病と動脈硬化性血管障害との関わりについて明らかになっていること,及び,今後明らかにしていくべきこととそのための戦略を考えてみたい。
2012年にアメリカ心臓病学会(AHA)は,歯周病と動脈硬化性心血管障害には「関連」はあるが,歯周病が動脈硬化性心血管疾患の「原因」であることについてはさらなる証拠の蓄積が必要との見解を示した。歯周病が心筋梗塞,不安定狭心症といった冠動脈疾患および脳梗塞,そして末梢動脈疾患(PAD)といった動脈硬化性血管障害と「関連」することは多くの横断研究,コホート研究で明らかにされてきた。それらの大規模な研究は欧米人を対象としたものがほとんどであるが,我々の研究を含む日本人を対象とした中規模の横断研究,コホート研究も歯周病と動脈硬化との関連を示唆する結果であった。「因果関係」を示すためには,介入研究,動物実験等が行われている。歯周治療が「短期的」には動脈硬化および動脈硬化性疾患の発症リスクマーカー値を改善させるとすることには十分な証拠があり,我々の日本人を対象とした介入研究も同様の結果を示している。しかしながら,歯周病予防・治療が「長期的」に心筋梗塞や脳梗塞の発症頻度を減らすのか,あるいはリスクマーカーの改善を継続させられるのかについては,現時点で十分な研究報告は出そろっておらず,そのため,因果関係の証明は未完の状態である。
したがって,今後の課題としては,長期的な介入研究の実施が挙げられる。疫学研究や介入研究においては,心筋梗塞や脳梗塞といったイベント発症をエンドポイントとしたものと,hs-CRPや血清脂質値といったリスクマーカーを指標としたものとがあり,後者は間接的な関連証明となる。一方,歯周病であることの定義にも問診だけによるものから歯周ポケット値などの組織破壊レベル,プロービング時の出血率などの炎症レベル,歯周病原細菌に対する血清抗体価などの感染レベルなど様々な指標が用いられている。長期的にどのような指標に関連性が認められるのかを示すことにより,具体的な因果関係を明らかにできる可能性がある。欧米と食習慣,生活習慣が異なる日本人における研究が必須と思われる。
因果関係のメカニズムについては歯周病原細菌または炎症性サイトカインによる血管壁の障害説が唱えられてきた。それに加えて,我々は,歯周病患者での口腔内細菌叢の不調和が腸内細菌叢の不調和を引き起こし,それが全身に軽微な炎症を惹起して血管の炎症であるところの動脈硬化を生じさせるという説を提唱し,動物実験,ヒト介入試験を行っている。
歯周病予防,歯周病治療は,血管障害のリスクを減らす可能性が極めて高いことは明白であり,患者個人,社会への発信も今後の重要な課題と思われる。