第83回日本公衆衛生学会総会

セッション情報

公募シンポジウム

シンポジウム17:Reproductive Governance and Societal Impacts of Assisted Reproductive Technology: A Comparison Between Taiwan and Japan

2024年10月29日(火) 13:10 〜 14:45 第8会場 (札幌コンベンションセンター 206)

座長:前田 恵理(北海道大学大学院医学研究院公衆衛生学教室)、Lee Pei-Chen(国立成功大学) 指定発言者:Huang Yu-Ling(国立成功大学)、左 勝則(自治医科大学 産科婦人科)

 日本は、世界でも生殖補助医療(体外受精や顕微授精)の利用率が高い国の一つであり、2021年の生殖補助医療による出生児数は6万9千人に上る。少子化を背景に生殖補助医療が人口と社会に与えるインパクトは高まっており、2022年度からは保険適用の治療となっている。生殖補助医療の社会への定着は、治療技術の安全性が向上した結果でもあり、日本産科婦人科学会が管理・運営する生殖レジストリによる継続的なモニタリングにより支えられてきた。
 台湾では、わが国と類似した社会文化的背景のもと、合計特殊出生率が1.0前後の超低出生状態が続いている。台湾でも少子化対策の一環として生殖補助医療への助成制度が強化され、保健福祉部が管理・運営する生殖補助医療データベースによるモニタリングが行われている。さらに、国民健康保険情報、死亡登録、がん登録、出生登録、母子保健情報等の大規模ナショナルデータベースと統合することによる研究利用も進む。本シンポジウムでは、両国の生殖補助医療の発展を支えてきたレジストリの役割と、台湾における最新のナショナルデータベース活用状況についてご講演いただく。
 さらに、生殖補助医療による新しい家族のかたちについても、台湾の近況をお話しいただく。日本では第三者の精子・卵子等を用いた生殖補助医療に関する法整備は立ち遅れており、多くの日本人夫婦が提供精子・卵子を求めて、台湾で渡航治療を受けている。しかし、今や欧米諸国を中心に、提供精子・卵子は不妊夫婦の治療のためだけに用いられるものではなくなった。セクシュアリティや婚姻状態を問わず、治療を必要とする人すべてを対象に、家族を持つ手段として提供され、既に広く利用されている。2019年に東アジアで初めて同性婚を法的に認めた台湾では、同性カップルやシングル女性が台湾国内で生殖補助医療を受けられるよう、現在法改正に向けた動きが活発化しており、匿名で提供されてきた提供卵子・精子のあり方についても議論が行われている。
 本シンポジウムでは、データベース研究から新しい家族のかたちまで、隣国の生殖補助医療について参加者の皆様と共有し、新しい視点で社会医学を見る機会としたい。本シンポジウムは英語で実施し、日英併記のスライドを使用する。是非、多くの皆様と議論できれば幸甚である。