○酒本 真次 (岡山大学病院精神科神経科)
セッション情報
シンポジウム
シンポジウム57
統合失調症診断と医学の進歩 -操作的な統合失調症診断概念における「器質因」を考える -
2023年6月23日(金) 13:15 〜 15:15 C会場 (パシフィコ横浜ノース 1F G6)
司会:尾関 祐二(滋賀医科大学精神医学講座), 髙木 学(岡山大学学術研究院医歯薬学域精神神経病態学教室)
メインコーディネーター:尾関 祐二(滋賀医科大学精神医学講座)
サブコーディネーター:髙木 学(岡山大学学術研究院医歯薬学域精神神経病態学教室)
現在統合失調症の診断を行う際にはDSM(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)やICD(International Statistical Classification of Diseases)を使用する。この際、いわゆる器質因の除外が規定されており、たとえばDSM-5では「その障害は、物質(例:乱用薬物,医薬品)または他の医学的疾患の生理学的作用によるものではない」と記載されている。すなわち、何らかの原因が特定されれば、その一群は統合失調症という診断から離脱することになる。改めてこの事実は操作的な診断カテゴリが不安定であることを示しているようにも見える。抗NMDA受容体脳炎が認知されていない時代には、統合失調症として診断されていた人たちもいたのかもしれない。また、DSM-5には晩発性(40歳以降での発症)事例の特殊性について言及があり「このような晩発性の事例も統合失調症の診断基準を満たすが、これが中年期以前(例:55歳以前)に診断される統合失調症と同等の状態であるかはいまだ不明である」と記載されている。この記載は晩発性の統合失調症は何らかの別の一群を形成する可能性を念頭に置いている。実際レビー小体型認知症やタウオパチー等の病態理解が進み、統合失調症と診断されていても剖検によって何らかの変性疾患に罹患していることが示される場合がある。こうした現状を臨床医の立場から見ると、統合失調症の診断を行うに当たっても(どの疾患でもそうであるが)新たな情報の獲得を継続し続けることが求められることになる。50年前であれば診断も治療もしようがなかった疾患が今や対処できるようになっているものもある。
以上のような現状を踏まえ、本シンポジウムでは、既存の診断基準では統合失調症と診断されかねない疾患について改めて概観することを目的とする。具体的には、自己免疫性の疾患に関して岡山大学の酒本真次先生、てんかん精神病の観点から国立精神・神経医療研究センターの谷口豪先生、滋賀医科大学からレビー小体型認知症など変性疾患について角幸頼先生、ライソゾーム病の一種であるニーマンピック病C型については藤井久彌子先生よりお話をいただく。医学は日進月歩である。多くの疾患の病態が解明されてゆくことで、操作的な診断基準で診断される統合失調症はわずかずつではあるが減少していくのかもしれない。Schizophrenieの命名者であるEugen Bleulerは当初から、Schizophrenieの概念はかなりの数の疾患を包含しているであろうことを指摘している。稀ではあるが生物学的な特徴を持っている統合失調症の研究も相まって、いずれ統合失調症の概念も変革してゆくのかもしれず、本シンポジウムはそうした方向への現状確認の意味合いを期待する。
○角 幸頼 (滋賀医科大学精神医学講座)
○藤井 久彌子 (滋賀医科大学精神医学講座)
○谷口 豪, 加藤 英生, 大竹 眞生, 中田 千尋 (国立精神・神経医療研究センター病院精神科)