第51回日本理学療法学術大会

講演情報

一般演題口述

日本基礎理学療法学会(JSPTF・JFPT) 一般演題口述
(基礎)02

2016年5月27日(金) 13:40 〜 14:40 第7会場 (札幌コンベンションセンター 2階 204)

座長:藤澤宏幸(東北文化学園大学 医療福祉学部)

[O-KS-02-1] 棘下筋の効果的なストレッチング方法の検討

肩関節水平内転位と伸展位での回旋条件を加えた比較

西下智1,2,3, 長谷川聡1, 中村雅俊1,4, 梅原潤1, 草野拳1, 市橋則明1 (1.京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻, 2.リハビリテーション科学総合研究所, 3.関西リハビリテーション病院, 4.同志社大学スポーツ健康科学部)

キーワード:ストレッチング, 棘下筋, せん断波エラストグラフィー

【目的】

肩関節の障害発生の原因の一つに肩関節後方タイトネスが着目されており,特に後方関節包,三角筋後部,棘下筋,小円筋の柔軟性の低下が問題視されている。柔軟性向上にはストレッチング(ストレッチ)が効果的だが,これらの組織に対する効果的なストレッチ方法についての研究は少ない。棘下筋に関してはストレッチやマッサージの即時効果を検証するような報告は存在するが,どのような肢位がより効果的なストレッチなのかを生体で検証した論文は見当たらない。新鮮遺体を用いた研究では棘下筋には伸展位での内旋が有効であることを示している一方で,実際のスポーツや臨床現場ではCross-body stretchに代表されるような肩関節を回旋中間位で水平内転させるストレッチ方法が用いられることが多い。そこで今回我々は筋の伸長量と高い相関関係にある弾性率を指標に,水平内転位や伸展位のストレッチ方法が棘下筋のストレッチとして有効か,また,内旋による効果の増大が認められるかを明らかにすることを目的とした。


【方法】

対象者は健常成人男性24名(平均年齢25.3±3.3歳)とし,対象筋は非利き手側の棘下筋の下部線維とした。棘下筋の弾性率の計測は超音波診断装置(SuperSonic Imagine社製)のせん断波エラストグラフィー機能を用いて行った。計測誤差を最小化できるように,計測箇所を「肩甲棘の中点と肩甲骨下角の直線上で,棘三角と下角を結ぶ3/4点と大結節を結ぶ直線との交点」の位置で統一し,3回の計測の平均値を算出した。弾性率は伸張の程度を表す指標で,弾性率の変化が高値を示すほど筋が伸張されていることを意味する。計測肢位は,下垂位(Rest),最大水平内転位(HadN),最大水平内転位での最大内旋(HadIR),最大伸展位(ExtN),最大伸展位での最大内旋(ExtIR)の5条件とした。統計学的検定は各肢位の棘下筋の弾性率について,反復測定一元配置分散分析および多重比較検定を行い,有意水準は5%とした。


【結果】

全5肢位のそれぞれの弾性率(平均±標準偏差,単位:kPa)はRestが6.4±1.8,HadNが16.1±10.3,HadIRが15.8±8.4,ExtNが19.4±9.4,ExtIRが30.3±15.5であった。統計学的にはRestに対してHadN,HadIR,ExtN,ExtIRの弾性率が有意に高値を示した。さらに,HadN,HadIR,ExtNに対してExtIRの弾性率が有意に高値を示した。HadN,HadIR,ExtNそれぞれの肢位間には有意差は無かった。


【結論】

棘下筋のストレッチ方法は,Restに対して弾性率が有意に高値を示したHadN,HadIR,ExtN,ExtIRの4肢位が有効であることが示された。HadN,HadIR,ExtNに対してExtIRの弾性率が有意に高値を示したため,水平内転位や内旋を強調しない伸展位に比べ伸展位での最大内旋がより効果的なストレッチ肢位であることが明らかとなった。またHadN,HadIRの肢位間に有意差を認めなかったため,最大水平内転位では内旋を強調してもストレッチ効果の増大を認めないことが明らかとなった。