第51回日本理学療法学術大会

講演情報

一般演題口述

日本基礎理学療法学会(JSPTF・JFPT) 一般演題口述
(基礎)06

2016年5月27日(金) 18:20 〜 19:20 第7会場 (札幌コンベンションセンター 2階 204)

座長:坂本淳哉(長崎大学)

[O-KS-06-6] 身体への快刺激は他部位の圧痛閾値を変化させるか

小田翔太, 芥川知彰, 室伏祐介, 山本貴裕, 近藤寛, 細田里南, 永野靖典, 池内昌彦 (高知大学医学部附属病院リハビリテーション部)

キーワード:疼痛, 快刺激, 圧痛閾値

【はじめに,目的】

近年の脳機能イメージングの進歩によって,痛みに関連する脳領域が明らかになっている。快・不快といった情動面を担う扁桃体などの領域も痛みに強く関連し,不快情動は痛みを増悪させる。そこで先行した快刺激を行うことで痛みの不快感を軽減し,疼痛閾値を上昇させることができるのではないかと考え検証した。本研究の目的は,主観的・客観的な評価に基づく快刺激によって疼痛閾値が上昇するか否かを検証することである。

【方法】

対象は,疼痛を有さない健常成人14名(男性7名,女性7名,年齢:24.3±2.8歳)である。基準となる数値を得るための先行測定として通常の室温(22℃)で5分の安静後,快・不快の評価と圧痛閾値(Pressure Pain threshold:PPT)の測定を行った。主観的な快・不快の評価はVASを用いて0mmを快,100mmを不快とし,客観的な評価は急性ストレス反応の指標である唾液中のアミラーゼを唾液アミラーゼモニター(ニプロ社製)を用いて測定した。PPTの測定にはAlgometer(SBMEDIC社製)を用い,右三角筋および前脛骨筋で各3回ずつ測定し,平均値を採用した。先行測定に次いで5分の安静後,3種類の刺激介入を順不同に10分行い,先行測定と同様の評価をそれぞれの介入直後に行った。刺激介入は,室温30℃の環境下での腰部へのアイスパック(寒冷刺激),ホットパック(温熱刺激),無刺激とした。刺激はいずれも疼痛を誘発しないことを前提とした。なお,各刺激間には30分の休憩を挟んだ。各刺激後の評価で得られた数値は先行測定の基準値で除し,変化率として比較に用いた。統計処理として,各刺激後の変化率を多重比較法(Tukey法)で比較した。統計学的有意水準は5%とした。

【結果】

刺激後のVAS変化率は寒冷刺激82.8±15.6%,温熱刺激128.9±28.1%,無刺激116.2±20.4%であり,寒冷刺激が他の刺激より有意に快刺激であった(p<0.01)。唾液アミラーゼの変化率は寒冷刺激83.4±27.5%,温熱刺激126.1±31.2%,無刺激110.6±26.1%であり,寒冷刺激が他の刺激より有意に快刺激であった(p<0.05)。三角筋のPPT変化率は寒冷刺激120.6±17.4%,温熱刺激84.7±15.8%,無刺激92.4±17.0%,前脛骨筋のPPT変化率は寒冷刺激109.6±15.4%,温熱刺激89.1±9.5%,無刺激90.4±9.7%であり,両筋とも寒冷刺激で他の刺激より有意に圧痛域値が上昇した(p<0.01)。

【結論】

主観的(VAS)にも客観的(唾液アミラーゼ)にも快刺激であった寒冷刺激後にPPTが上昇していたことから,快刺激には疼痛の感受性を低下させる作用があることが示唆された。本研究モデルでは,圧痛閾値の計測部位と異なる部位を刺激介入部位としている。臨床においては,術創部や外傷部位などの直接介入が困難な部位の疼痛に対して効果的な介入となるかもしれない。本研究では健常者の圧痛閾値の変化しか検討できておらず,実際の臨床場面での効果検証が今後の課題である。