第51回日本理学療法学術大会

講演情報

一般演題口述

日本基礎理学療法学会(JSPTF・JFPT) 一般演題口述
(基礎)08

2016年5月28日(土) 11:10 〜 12:10 第6会場 (札幌コンベンションセンター 2階 小ホール)

座長:淺井仁(金沢大学 医薬保健研究域保健学系リハビリテーション科学領域)

[O-KS-08-2] 足関節背屈刺激の繰り返しによる機能的伸張反射の抑制効果と身体動揺への影響

齊藤展士1, 片田優司2, 鈴森雄貴3, 笠原敏史1, 山中正紀1 (1.北海道大学大学院保健科学研究院機能回復学分野, 2.北海道大学医学部保健学科理学療法学専攻, 3.北海道大学大学院保健科学院)

キーワード:姿勢制御, 機能的伸張反射, 筋活動

【はじめに,目的】

立位において足関節が背屈する方向に急に床面が傾斜すると,下腿三頭筋が伸張され,傾斜後100-120msのタイミングで下腿三頭筋に急激な収縮が起こる(Melvill & Watt, 1971)。これは機能的伸張反射と呼ばれ,この反射により身体は大きく後方に動揺する。しかしながら,この足関節背屈方向への床面傾斜を数試行繰り返すだけで機能的伸張反射は抑制されることが知られており,後方への身体動揺も減少する(Nashner, 1976)。筋緊張の異常を呈する疾患では機能的伸張反射が亢進し転倒の危険性が高まる恐れがあるため,この反射を抑制し,その抑制を持続させる必要がある。そこで今回,我々は床面を傾斜させることで足関節背屈刺激を与え,その刺激の繰り返しによる機能的伸張反射の抑制効果と身体動揺への影響を調べた。

【方法】

研究趣旨に同意し,神経学的,及び整形外科学的既往のない健常成人15名(22±1歳)を対象とした。被験者は足関節軸に合わせて背屈方向に傾斜する床面に立ち,傾斜に対しできるだけ動揺しないよう要求された。傾斜は水平位から振幅10°,角速度10°/secで台形波状に与えられた。傾斜はプレテストとして10試行,適応テストとして100試行,ポストテストとして10分後と30分後に10試行ずつ繰り返された。腓腹筋の積分筋活動量と三次元動作解析装置(Motion analysis社製)により記録した体重心の移動距離を算出した。床面が傾斜した直後の腓腹筋活動量(0-250ms)と体重心の最大移動距離についてプレテストと各テストにおける10試行の平均値を比較した。統計検定として反復測定一元配置分散分析と多重比較(Bonferroni)を行った。危険率は5%とした。

【結果】

プレテストにおいて出現した腓腹筋の機能的伸張反射は足関節背屈刺激の繰り返しにより全ての被験者で有意に抑制され消失した(0.49±0.12 vs 0.16±0.08,p<0.01)。また,その抑制効果は10分後(0.24±0.09,p<0.01)と30分後(0.28±0.12,p<0.01)も持続した。体重心の動揺距離は有意に減少した(41.8±11.2mm vs 26.6±8.3mm,p<0.01)。その減少は10分後(30.1±10.6mm,p<0.01)と30分後(28.4±8.7mm,p<0.01)も保持された。



【結論】

床面を傾斜させ足関節背屈刺激を繰り返し与えることにより機能的伸張反射は抑制され,少なくとも30分間は抑制効果が持続した。この結果は,反射レベルの筋活動においても適切な刺激の繰り返しにより抑制の適応が起こること,その抑制を持続させることが可能であることを示唆している。また,このような筋活動の抑制の持続により身体動揺が減少し,姿勢の安定性が向上すると考える。本研究を発展させ,適切な繰り返しの回数や刺激強度を調べて機能的伸張反射抑制の持続効果を高めることは,機能的伸張反射が亢進した患者の転倒防止に役立つであろうし,将来のリハビリテーションにとって重要と考える。