第51回日本理学療法学術大会

講演情報

一般演題口述

日本基礎理学療法学会(JSPTF・JFPT) 一般演題口述
(基礎)21

2016年5月29日(日) 11:10 〜 12:10 第6会場 (札幌コンベンションセンター 2階 小ホール)

座長:平岡浩一(大阪府立大学)

[O-KS-21-6] 視覚誘導性自己運動錯覚が異種感覚入力の統合によって誘導される運動感覚に及ぼす影響

柴田恵理子1,2, 金子文成1,2, 髙橋良輔1,3, 板口典弘1,2 (1.札幌医科大学保健医療学部未来医療ニューロリハビリテーション研究開発部門, 2.札幌医科大学保健医療学部理学療法学第一講座, 3.医療法人社団進和会旭川リハビリテーション病院)

キーワード:運動感覚, 視覚, 筋紡錘

【はじめに,目的】

運動感覚が生成される過程では,様々な感覚受容器から生じる入力の統合,および感覚入力と中枢からの運動指令に伴う活動の統合が生じる。我々はこれまで筋紡錘からの入力や視覚入力といった感覚入力によって,受動的に運動をしている感覚を知覚させる方法(運動錯覚)を利用し,運動感覚の生成機構を探索してきた。近年では筋腱に対する振動刺激と身体運動の動画を用いた視覚刺激を組み合わせることで知覚する運動の角速度を指標とし,異種感覚入力の統合が運動感覚に及ぼす影響を検証している。本研究では視覚刺激による運動錯覚の有無が,筋紡錘からの入力と視覚入力の統合によって誘導される運動感覚に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。


【方法】

対象は健康な右利きの成人12名,刺激側は右手関節とした。実験課題として,モニタに手関節運動の映像を提示した状態で背屈筋に振動刺激を行った。刺激周波数を増加させると知覚する運動の角速度も増大するため,40,60,80Hzと多段階の周波数を設定することで知覚する運動の角速度を段階付けた。視覚刺激には,背屈筋を60Hzで振動刺激した際に知覚した掌屈運動を同側で再現させ,手の直上から撮影した映像を用いた。これにより視覚刺激と60Hzの振動刺激を組み合わせた場合には各刺激によって知覚する運動の角速度が一致し,40,80Hzの場合は不一致となる。映像を提示するモニタは,被験者の視点から映像の手と現実の手が空間的に一致するような位置(錯覚位置)と被験者の正面(非錯覚位置)のいずれかに設置した。実験条件は各周波数につき,振動刺激単独(V条件),振動刺激に錯覚位置(V+IL条件)と非錯覚位置(V+nIL条件)での視覚刺激を組み合わせた条件とした。知覚強度の指標には,刺激中に知覚した運動を反対側で再現させた際の角速度を用いた。各5試技ずつ実施し,最大値と最小値を除外した3試技の平均値を採用した。さらに振動刺激単独に対して,視覚刺激との組み合わせによって変化する知覚の程度を評価するため,V+IL条件とV+nIL条件では各周波数でV条件に対する角速度の変化率を算出した。


【結果】

全条件で刺激周波数の増加に伴い,知覚する運動の角速度が有意に増大した。V+IL条件の変化率は刺激周波数によって差があったのに対し,V+nIL条件では刺激周波数に関わらず変化しなかった。


【結論】

刺激の組み合わせに関わらず,刺激周波数が増加すると知覚する運動の角速度が増大したことから,筋紡錘からの入力と視覚入力の統合で誘導される運動感覚は筋紡錘からの入力量に依存して変化することが示された。さらにその変化の仕方は,同じ視覚刺激を用いたとしても,視覚刺激によって運動錯覚が誘導されている場合とされていない場合とでは異なることが示唆された。