第51回日本理学療法学術大会

講演情報

一般演題口述

日本神経理学療法学会 一般演題口述
(神経)15

2016年5月29日(日) 10:00 〜 11:00 第7会場 (札幌コンベンションセンター 2階 204)

座長:柿澤雅史(札幌医科大学附属病院 リハビリテーション部)

[O-NV-15-5] アルツハイマー病患者における床面の模様による歩く方向の誘導効果

岡田洋平1,2,3, 中山順4, 横山諒1, 藤井淳1, 冷水誠1,2,3, 森岡周1,2,3 (1.畿央大学健康科学部理学療法学科, 2.畿央大学大学院健康科学研究科, 3.畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター, 4.畿央大学健康科学部人間環境デザイン学科)

キーワード:アルツハイマー病, 歩行, 生活環境

【はじめに,目的】

アルツハイマー病(AD)の歩行に関連した問題点の一つに道迷いが挙げられる。ADの道迷いに対する対策の一つとして生活環境設定が挙げられる。床面の模様は,その形状により歩く方向を誘導し,ADの道迷いを軽減する手段として有用である可能性があるが,形状認識に関わる側頭葉領域にも疾患の影響が及ぶため,床面の模様の形状に関する情報処理が適切に行われず,歩く方向が誘導されないことも考えられる。先行研究において床面の模様によるAD患者の歩く方向の誘導効果については明らかにされていない。本研究の目的は,ADにおける床面の模様による歩く方向の誘導効果について検証することとした。

【方法】

AD患者13名,年齢,性別を一致させた健常高齢者13名を対象とした。我々は床面の模様として,大楕円のみ(誘導効果なし)では歩く方向が誘導されないが,大楕円の奥に小楕円を配置(誘導効果)すると模様の形状により歩行が誘導され,大楕円の手前に小楕円を配置(抑止効果)すると歩行が抑止されるのではないかと着想した。対象者は,左右二列の床面の模様が一定間隔で配置された8mの歩行路の1m手前に立ち,左右いずれかを選択して歩いた。対象者は,①誘導効果なし,②右のみ誘導効果,③左のみ誘導効果,④右のみ抑止効果,⑤左のみ抑止効果,⑥右誘導効果・左抑止効果の6条件をランダムな順序で1試行ずつ実施した。AD患者と健常高齢者における条件②~⑥と条件①の歩く方向の割合の差を,Fisher直接確率検定により検討した。有意水準は5%未満とした。

【結果】

口頭指示が理解不可能なAD患者3名は解析から除外した。その3名は模様との間を歩いたり,模様を踏みたくないと言って爪先から接地して歩いたりした。残り10名のAD患者は,条件①では6名が右を選択したが,右誘導効果・左抑止効果を組み合わせた条件⑥において全員が右を選択した(p=0.08)。また,右のみ抑止効果の条件④においては,10名中8名が左を選択した(p=0.16)。健常高齢者は,条件①では13名中7名が右を選択したが,右のみ誘導効果の条件②と右誘導効果・左抑止効果の条件⑥において,13名中11名が右を選択した(p=0.20)。

【結論】

AD患者は健常高齢者と同様に誘導効果と抑止効果を組み合わせた床面の模様により,誘導効果の模様のある方向に歩行が誘導される傾向にあることが明らかになった。口頭指示が理解不可能なAD患者は,床面の模様を避けるように歩いたことや,AD患者は健常高齢者のように右のみ誘導効果の条件では右側に誘導されず,右のみ抑止効果の条件において歩行が左側に誘導される傾向にあったことから,小楕円と大楕円を組み合わせた複雑な模様の形状に関する情報処理は可能であるが,その情報処理能力の低下から複雑な模様を避ける傾向にあると考えられる。本研究は,床面の模様によってAD患者の歩く方向を誘導することが可能であることを示した点で臨床的意義は大きい。