第51回日本理学療法学術大会

講演情報

一般演題口述

日本スポーツ理学療法学会 一般演題口述
(スポーツ)03

2016年5月27日(金) 12:30 〜 13:30 第9会場 (札幌コンベンションセンター 2階 207)

座長:吉田真(北翔大学 生涯スポーツ学部)

[O-SP-03-1] 投球動作におけるステップ側の下肢筋力と膝関節動作及び肩関節・肘関節トルクとの関係

内田智也1, 松本晋太朗1, 小松稔1, 野田優希1, 石田美弥1, 佃美智留1, 古川裕之1, 大久保吏司2, 藤田健司1 (1.藤田整形外科・スポーツクリニック, 2.神戸学院大学)

キーワード:投球動作, 野球, 下肢筋力

【はじめに,目的】投球動作は軸足による並進運動及びステップ足を軸とした回転運動によって構成され,良好な投球動作を獲得するためには,安定した下肢・体幹動作が重要となる。投球動作中の加速期において,ステップ足の大腿四頭筋の筋活動がピークを迎えると報告されており,膝伸展筋力が良好な投球動作の獲得に寄与すると考えられる。しかし,膝伸展筋力と投球動作の関係を検討した報告は我々が渉猟し得た限りみられない。そこで,我々は投球動作におけるステップ側の下肢筋力と膝関節動作及び肩関節・肘関節トルクの関係を検討したため報告する。


【方法】対象は中学野球選手の投手34名であった。下肢筋力評価は我々が考案した大腿四頭筋の遠心性筋力の評価指標であるSingle Leg Up Downテスト(SLUDテスト)を使用した。SLUDテストは40~10cmの台を用意し,両手を胸の前で組んだ状態から,片脚で台から立ち上がり,座るまでを一つの試技とした。テストは40cmの高さから順に低くしていき,遂行可能であった最も低い高さをSLUDテストの結果とし,20cm以下の選手をGood群(以下,G群),30cm以上の選手をPoor群(以下,P群)として二群に群分けした。また,投球動作を三次元動作解析装置cortex(Motion Analysis社製)によって計測し,nMotion(nac社製)で関節角度・関節トルクを算出した。解析項目は身長及び体重で補正した肩関節内旋トルク・肘関節内反トルクの球速比(nSIRT/V・nEVT/V)とし,対応のないt-検定を用いて群間比較した。次に,各群の膝関節屈曲-伸展角速度変化をフットプラントからボールリリースまでの時間軸を100%として正規化し,前半の50%を第1期,後半の50%を第2期として比較検討した。


【結果】G群21名,P群13名であり,各群の年齢・身長・体重に差はなかった。G群・P群の各項目はそれぞれnSIRT/V:0.008±0.002,0.01±0.002(p=0.035),nEVT/V:0.007±0.002,0.008±0.002(p=0.089)であり,P群のnSIRT/Vは有意に高値を示し,nEVT/Vでは有意差はなかったが高い傾向を示した。また,角速度変化において,第1期のG群はフットプラント以降に屈曲角速度を徐々に減速させていたが,P群は軽度の伸展角速度が生じた後,急激に屈曲角速度が加速する傾向を示した。第2期は両群とも伸展角速度が徐々に加速する角速度変化を示した。


【結論】ステップ動作の指導において「膝の縦割れ」という感覚的な表現を用いることも多く,不安定なステップ動作は軸足からのスムーズな体重移動を阻害し,投球動作不良に繋がるとされる。本研究のP群は第1期に急激に屈曲角速度が加速する体重移動を呈しており,これは「膝の縦割れ」という表現を定量化したものであると考えられる。よって,P群のnSIRT/Vが高値を示したことから,ステップ足の膝伸展筋力の筋力不足はフットプラント以降のスムーズな膝関節屈曲動作を阻害し,上肢に過剰なストレスを与える投球動作に繋がることが示唆された。