第51回日本理学療法学術大会

講演情報

一般演題口述

日本予防理学療法学会 一般演題口述
(予防)05

2016年5月27日(金) 14:50 〜 15:50 第8会場 (札幌コンベンションセンター 2階 206)

座長:武藤久司(水戸メディカルカレッジ 理学療法学科)

[O-YB-05-5] 高齢者の転倒恐怖感,閉じこもりに関わる諸要因の相互関係:構造方程式モデリングによるパス解析

小林薰1, 野村高弘1, 柊幸伸2 (1.国際医療福祉大学保健医療学部理学療法学科, 2.了德寺大学健康科学部理学療法学科)

キーワード:転倒恐怖感, 運動有能感, 構造方程式モデリング

【目的】65歳以上の高齢者では,3人に1人が年に1回以上は転倒すると報告されている。転倒は外傷や骨折の直接的な原因となる一方で,心理的にも負の影響を及ぼすことが明らかにされている。そのなかでも,転倒後に生じる転倒恐怖感は高齢者の潜在的なリスクファクターであり,日常的な活動制限や閉じこもりの一要因となる。この転倒恐怖感は転倒経験がない者にも存在するとされ,これは転倒という実質的なアクシデント以外の要因の関与が示唆される。そこで,本研究では高齢者の生活空間の拡大を目的として,転倒恐怖感および閉じこもりに関わる諸要因を包括的に分析した。

【方法】対象は市の介護予防センターを利用する高齢者59名(男性33名,女性26名:平均年齢75.5±5.7歳)であった。調査項目は,過去1年間の転倒歴(少なくとも1回以上,外傷をともなう),転倒恐怖感の有無,成人用運動有能感尺度(運動有能感4項目,運動統制感3項目:以下,有能感),運動習慣の有無(1回30分以上の運動,週2回以上),Motor Fitness Scale(移動性6項目,筋力4項目,平衡性4項目:以下,生活体力)とした。統計解析は,構造方程式モデリングによるパス解析(統計ソフトウェア:IBM SPSS Amos 22.0)を用い,有意水準は5%とした。

【結果】全59名中,7名(11.9%)が過去1年間に外傷をともなう転倒を経験していた。また,転倒歴がないにも関わらず転倒恐怖感を有していた者と閉じこもり者は,それぞれ22名(37.3%),7名(11.9%)であった。転倒歴,有能感を転倒恐怖感と閉じこもりに直接関連させたパス図においては,有能感のみが有意な関係を示し,その標準化係数は-0.69であった。また,有能感は運動習慣と生活体力と有意な関係を示し,その標準化係数はそれぞれ-0.38,0.69であった。その他,生活体力は転倒歴と有意な関係を示し,その標準化係数は-0.26であった。最終モデルの適合度は良好であり,統計学的な採択基準を満たしていた(GFI=0.961,AGFI=0.902,RMSEA=0.000)。

【結論】生活体力は転倒と有意な関係が認められたが,これは先行研究に準じる結果であった。一方,転倒恐怖感と閉じこもりについては転倒歴の影響は認められず,自らの運動能力に対する肯定的認知である運動に関する有能感が直接影響していることが示された。本研究において,転倒経験がない者にも転倒恐怖感が多く存在することを考慮すると,この有能感が転倒恐怖感を構成する潜在的な要因の一つであることが示唆された。そのため,運動に対する自信や統制感といった内発的動機づけを積極的に促すことができれば,生活体力を向上させるだけではなく,転倒恐怖感を直接軽減あるいは改善できる可能性が考えられた。