第51回日本理学療法学術大会

講演情報

一般演題ポスター

日本基礎理学療法学会(JSPTF・JFPT) 一般演題ポスター
基礎P02

2016年5月27日(金) 11:50 〜 12:50 第11会場 (産業振興センター 2階 セミナールームA)

[P-KS-02-4] 超音波ジェルの温度差は組織温に影響を与えるのか?

ラットによる実験的研究

中田歩美香, 浦野由佳, 積山和加子, 梅井凡子, 小野武也, 沖貞明 (県立広島大学保健福祉学部理学療法学科)

キーワード:超音波療法, 温熱, ラット

【はじめに,目的】

超音波照射開始後にジェルの冷却効果と気化熱により組織温の温度低下が生じたとの報告があり,ジェルが温熱効果に影響しているのであれば,これを考慮して治療を行う必要がある。しかし,ジェルの温度を変化させることが温熱効果に影響するかは明らかになっていない。そこで直接法による超音波療法を行うにあたり,ジェルの温度の違いによって温熱効果に影響を与えるのかを明らかにすることを目的として動物実験を実施した。

【方法】

成熟Wistar系雌ラットを対象とし,室温(約26℃)のジェルを用いる室温ジェル群(6匹)と約40℃に温めたジェルを用いる40℃ジェル群(6匹)の2群にランダムに分けた。麻酔下にて,ラットの左後肢を除毛し,針型温度計をヒラメ筋の中央部と皮下の2か所に設置して筋内温度と皮下温度を測定した。温度測定は超音波照射前1分から開始し,超音波照射後10分まで1分毎に記録を行った。超音波照射条件は,周波数3MHz,照射時間率100%,出力1.5W/cm2とし,導子の有効照射面積の2倍の大きさをくり抜いた厚さ3mmのゴム製マットを用いて実施した。ジェルは超音波照射の直前に照射部に付け,ジェルの温度変化を可能な限り防いだ。照射はストローク法で行い,メトロノームを使用することで速度の一定化を図った。また,実施者の視覚を遮断した状態でジェルを選定し,どちらのジェルを使用しているか把握できないよう配慮した。統計処理として,対応のある二元配置分散分析を行った後,Dunnetの多重比較を行い,有意差の有無は危険率5%未満をもって判定した。

【結果】

皮下温度では,交互作用は認められず,40℃ジェル群と室温ジェル群の両群間に有意差は見られなかった。室温ジェル群では開始直後にわずかだが温度低下が生じ,40℃ジェル群よりも遅れて温度は上昇した。筋内温度でも交互作用は認められず,40℃ジェル群と室温ジェル群の両群間に有意差は見られなかった。両群ともにほぼ同じ経過で温度上昇が生じた。

【結論】

皮下温度に関して,40℃ジェル群では開始直後の温度低下は生じず,室温ジェル群より早期に温度上昇が見られた。これはジェルを温めたことでジェルの冷却効果がなかったためだと考えられる。また,筋内温度では両群ともにほぼ同じ経過で温度上昇が認められた。筋内は皮下に比べ深部であるため,ジェル温の影響を受けにくいことが原因だと考えられた。本研究により,直接法による超音波療法を行う際のジェルの温度は,皮下温度のみに影響を与え,筋内温度には大きな影響を与えないということが明らかとなった。治療を行う際にジェルを温めることで患者の不快感を軽減することが可能であるが,超音波の本来の目的である深部組織に対する温熱効果を考えると,必ずしもジェルを温める必要はないと言える。