第51回日本理学療法学術大会

講演情報

一般演題ポスター

日本基礎理学療法学会(JSPTF・JFPT) 一般演題ポスター
基礎P07

2016年5月27日(金) 15:20 〜 16:20 第11会場 (産業振興センター 2階 セミナールームA)

[P-KS-07-1] 視覚誘導性自己運動錯覚と運動イメージ想起の併用による皮質脊髄路興奮性変化の検討

奥山航平1, 金子文成2,3, 柴田恵理子2,3, 板口典弘2,3 (1.札幌医科大学大学院保健医療学研究科理学療法学・作業療法学専攻, 2.札幌医科大学保健医療学部理学療法学第一講座, 3.札幌医科大学保健医療学部未来医療ニューロリハビリテーション研究開発部門)

キーワード:自己運動錯覚, 運動イメージ想起, 運動誘発電位

【はじめに,目的】

運動イメージ想起とは,実際の運動出力を伴わずに作業記憶内で運動を内的に再現する過程である。様々な脳機能イメージング研究より,運動イメージ想起中には運動の発現に寄与する多くの脳領域が活動することが示されており,脳卒中片麻痺患者に対する治療手段として応用されている。しかし,運動イメージ想起の鮮明性や運動イメージ想起中の皮質脊髄路興奮性は,実際の運動経験に基づき並列的に変化すると報告されており,高齢者や脳卒中片麻痺患者では鮮明なイメージが困難となる。したがって,本研究では運動イメージ想起のトレーニング方法として視覚誘導性自己運動錯覚に着目し,皮質脊髄路興奮性の変化から,その有用性を検討することを目的とした。


【方法】

被験者は,健康な右利き成人とした。実験条件は,安静条件,運動イメージ想起(MI)条件,視覚誘導性自己運動錯覚と運動イメージ想起の併用(ILMI)条件の3条件とした。課題は,健常成人に対する運動イメージ想起の難易度を高めるため,手指の巧緻動作が求められるボール回転課題とした。被験者には,事前に右手でのボール回転課題を十分に行わせた後,左手でのボール回転課題をイメージさせた。ILMI条件では,被験者の前腕上に設置したモニタに右手でのボール回転課題の実施映像を左右反転提示し,映像に合わせてイメージさせた。自己運動錯覚強度の指標には,7リッカートスケールを用いた。皮質脊髄路興奮性の評価には,経頭蓋磁気刺激(TMS)を実施した際に,左第一背側骨幹筋(FDI)から記録される運動誘発電位(MEP)を用いた。TMSの刺激部位は左FDIのHot Spotとし,刺激強度は安静時に約1mVのMEP振幅が誘発される強度とした。本研究では,運動イメージ想起のトレーニング方法としてILMIの有用性を評価するため,ILMIを30秒間10セット行なった前後で,運動イメージ想起中のMEP測定を行った。統計学的解析として,MEP振幅は条件(安静,MI,ILMI)を要因として,反復測定一元配置分散分析を実施した。有意な主効果があった場合,Bonferroniによる多重比較検定を実施した。また,トレーニング前後の運動イメージ想起中MEP振幅に対して,対応のあるt検定を実施した(p<0.05)。


【結果】

安静条件,MI条件と比較して,ILMI条件におけるMEP振幅が有意に増大した。ILMIトレーニング後の運動イメージ想起中MEPは,トレーニング前と比較して有意に増大した。


【結論】

視覚誘導性自己運動錯覚と運動イメージ想起を併用することで,運動イメージ想起を単独で実施するよりも皮質脊髄路興奮性が増大することが示された。さらに,運動イメージ想起のトレーニングとして視覚誘導性自己運動錯覚と運動イメージ想起の併用を行うことで,運動イメージ想起中の皮質脊髄路興奮性が増大することが示された。本研究は,運動イメージ想起を臨床応用する上での基礎的な知見となり得ると考える。