第51回日本理学療法学術大会

講演情報

一般演題ポスター

日本基礎理学療法学会(JSPTF・JFPT) 一般演題ポスター
基礎P26

2016年5月28日(土) 14:50 〜 15:50 第12会場 (産業振興センター 2階 体育実習室)

[P-KS-26-5] 不動によって惹起される関節包の線維化の病態解明に関する実験的研究

佐々部陵1,2, 後藤響2,3, 坂本淳哉4, 本田祐一郎1, 片岡英樹3, 中野治郎4, 沖田実2 (1.長崎大学病院リハビリテーション部, 2.長崎大学大学院医歯薬学総合研究科医療科学専攻リハビリテーション科学講座運動障害リハビリテーション学分野, 3.社会医療法人長崎記念病院リハビリテーション部, 4.長崎大学大学院医歯薬学総合研究科保健学専攻理学・作業療法学講座理学療法学分野)

キーワード:不動, 関節包, 線維化

【はじめに,目的】以前より,不動によって惹起される関節包の線維化は関節性拘縮の病理的基盤として指摘されていたが,その病態変化が関節性拘縮の進行にどのように関与しているのかは明確になっていない。そこで,本研究では不動によって惹起したラット膝関節屈曲拘縮モデルの関節包について,線維化の発生・進行状況を明らかにするとともに,主要なcollagen isoformsであるtype I・III collagenならびにcollagen合成能が高い筋線維芽細胞の動態について検討した。

【方法】12週齢のWistar系雄性ラット60匹を両側股・膝関節を最大屈曲位にてギプス包帯で1・2・4週間不動化する不動群(n=30,各n=10)と,不動群と同週齢まで通常飼育する対照群(n=30,各n=10)に無作為に振り分けた。各不動期間終了後は両側膝関節を摘出し,通法のパラフィン包埋を行い,以下の検索に供した。まず,Picrosirius Red染色を施し,画像処理ソフトを用いて,同染色像における後部関節包のcollagenの量的変化および密生化の状況を半定量化した。次に,type I・III collagen mRNAに対するin situ hybridizationを実施し,後部関節包における各陽性細胞の割合を算出した。加えて,筋線維芽細胞のマーカーであるα-smooth muscle actin(α-SMA)に対し免疫組織化学的染色を行ない,後部関節包における陽性細胞の割合を算出した。統計処理として,群間比較には対応のないt検定を,群毎の不動期間の比較には一元配置分散分析を用い,事後検定としてScheffe法を適用し,危険率5%未満をもって有意差を判定した。

【結果】collagenの量的変化は,各不動期間とも不動群は対照群と比べて有意に高値を示し,不動4週は不動1・2週より有意に高値を示した。また,その密生化ついては不動2・4週において不動群は対照群に比べ有意に高値を示し,不動期間に準拠して有意に高値を示した。次に,type I collagen mRNA陽性細胞の割合は,各不動期間とも不動群は対照群に比べ有意に高値を示し,不動期間に準拠して有意に高値を示した。一方,type III collagen mRNA陽性細胞については,各不動期間とも不動群と対照群の間に有意差を認めなかった。最後に,α-SMA陽性細胞の割合は各不動期間とも不動群は対照群に比べ有意に高値を示し,不動期間に準拠して有意に高値を示した。

【結論】今回の結果から,不動状態に曝された関節包は1週で線維化が発生し,これは不動期間の延長に伴い進行することが明らかとなった。そして,type I collagen mRNA陽性細胞ならびに筋線維芽細胞も不動期間依存的に増加することが明らかとなり,この点に関して先行研究を参考にすると,type I collagen mRNA陽性細胞は線維芽細胞から分化誘導した筋線維芽細胞である可能性が高いと思われる。つまり,筋線維芽細胞の増加によるtype I collagenの過剰増生といった関節包における線維化の病態が不動期間依存的に著しくなり,関節性拘縮の進行に影響することが示唆された。