[P-MT-41-1] 歩行立脚相における下肢回旋と足底に生じる摩擦の関係
~捻じれ応力としてのFree Momentに着目して~
キーワード:Free moment, 摩擦, 歩行分析
【はじめに,目的】
運動器疾患において,症状が歩行時の下肢回旋運動に起因すると考えられる症例は少なくない。二足歩行での足底は唯一床と接している面であり,床反力を利用して身体を移動させるための摩擦が生じる部位である。摩擦によって生じるFree Moment(以下:FM)は足圧中心(以下:COP)を貫く鉛直軸周りの偶力と定義される。FMに関してMilnerらは長距離ランナーの脛骨疲労骨折の要因になり得ることを報告しており,FMは捻じれ応力として足底から近位へと上行性に波及し,下肢の回旋運動と相互的に影響を及ぼすことが考えられる。また,Almosninoらは故意的な足部外転位での歩行でFMが増大するとしているが,自由歩行と足部の肢位に関しては不明のままである。そこで,本研究は歩行時の下肢回旋角度および足部肢位とFMとの関係を明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は整形外科的疾患のない健常男性18名(年齢21.0±1.1歳,身長172.7±5.4cm,体重65.6±6.9kg)。計測機器は三次元動作解析装置(VICON Motion system社製)と床反力計(AMTI社製)を用い,サンプリング周波数を100Hzとした。計測課題は裸足での自由歩行3試行とし,左下肢を計測対象とした。両上前腸骨棘(以下:ASIS)および左第二中足骨頭,左踵骨後面にマーカーを貼付し,足部のマーカーを結ぶ直線を足の長軸とした。計測項目としてFM,両ASISを結んだ直線と足長軸のなす下肢回旋角度,左下肢のCOP出現点と直後の右下肢COP出現点を結んだ直線と立脚中期での足長軸とのなす角度を足軸角度として算出した。統計解析は立脚相における下肢回旋角度最大値および足軸角度に対してFM最大値との関係をSpearmanの順位相関係数を用いて検討した。なお,各項目の3試行の平均を代表値とし,FMは各対象の体重で正規化した。有意水準は5%未満とした。
【結果】
得られた項目の値はそれぞれFM最大値0.05±0.02Nm/kg,下肢回旋角度96.2±10.2°,足軸角度13.9±5.6°であった。FM最大値と下肢回旋角度最大値の間に有意な負の相関が認められた(r=-0.61,p<0.01)。一方,FM最大値と足軸角度との間には有意な相関は認められなかった。
【結論】
歩行時の下肢回旋角度が小さいと捻じれ応力であるFMは大きくなり,また,自由歩行において足部長軸の角度はFMに影響を及ぼさないことがわかった。本研究で定義した下肢回旋角度は骨盤回旋,実際には股関節の内旋によってなされていることが推測される。Levensらは立脚後期で下肢全体は空間上を外旋すると報告している。全対象者のFMの最大値は同様に立脚後期で生じ,足部外転に抵抗する向きであったことから,歩行時の股関節内旋によって下肢全体が水平面上を外旋する傾向が低下したのだと考える。個々人の関節可動域やスティフネス等も考慮する必要があるが,足底の摩擦による下肢への捻じれ応力を評価する際は足部のみでなく,近位関節も評価する重要性が示唆された。
運動器疾患において,症状が歩行時の下肢回旋運動に起因すると考えられる症例は少なくない。二足歩行での足底は唯一床と接している面であり,床反力を利用して身体を移動させるための摩擦が生じる部位である。摩擦によって生じるFree Moment(以下:FM)は足圧中心(以下:COP)を貫く鉛直軸周りの偶力と定義される。FMに関してMilnerらは長距離ランナーの脛骨疲労骨折の要因になり得ることを報告しており,FMは捻じれ応力として足底から近位へと上行性に波及し,下肢の回旋運動と相互的に影響を及ぼすことが考えられる。また,Almosninoらは故意的な足部外転位での歩行でFMが増大するとしているが,自由歩行と足部の肢位に関しては不明のままである。そこで,本研究は歩行時の下肢回旋角度および足部肢位とFMとの関係を明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は整形外科的疾患のない健常男性18名(年齢21.0±1.1歳,身長172.7±5.4cm,体重65.6±6.9kg)。計測機器は三次元動作解析装置(VICON Motion system社製)と床反力計(AMTI社製)を用い,サンプリング周波数を100Hzとした。計測課題は裸足での自由歩行3試行とし,左下肢を計測対象とした。両上前腸骨棘(以下:ASIS)および左第二中足骨頭,左踵骨後面にマーカーを貼付し,足部のマーカーを結ぶ直線を足の長軸とした。計測項目としてFM,両ASISを結んだ直線と足長軸のなす下肢回旋角度,左下肢のCOP出現点と直後の右下肢COP出現点を結んだ直線と立脚中期での足長軸とのなす角度を足軸角度として算出した。統計解析は立脚相における下肢回旋角度最大値および足軸角度に対してFM最大値との関係をSpearmanの順位相関係数を用いて検討した。なお,各項目の3試行の平均を代表値とし,FMは各対象の体重で正規化した。有意水準は5%未満とした。
【結果】
得られた項目の値はそれぞれFM最大値0.05±0.02Nm/kg,下肢回旋角度96.2±10.2°,足軸角度13.9±5.6°であった。FM最大値と下肢回旋角度最大値の間に有意な負の相関が認められた(r=-0.61,p<0.01)。一方,FM最大値と足軸角度との間には有意な相関は認められなかった。
【結論】
歩行時の下肢回旋角度が小さいと捻じれ応力であるFMは大きくなり,また,自由歩行において足部長軸の角度はFMに影響を及ぼさないことがわかった。本研究で定義した下肢回旋角度は骨盤回旋,実際には股関節の内旋によってなされていることが推測される。Levensらは立脚後期で下肢全体は空間上を外旋すると報告している。全対象者のFMの最大値は同様に立脚後期で生じ,足部外転に抵抗する向きであったことから,歩行時の股関節内旋によって下肢全体が水平面上を外旋する傾向が低下したのだと考える。個々人の関節可動域やスティフネス等も考慮する必要があるが,足底の摩擦による下肢への捻じれ応力を評価する際は足部のみでなく,近位関節も評価する重要性が示唆された。