第51回日本理学療法学術大会

講演情報

一般演題ポスター

日本神経理学療法学会 一般演題ポスター
神経P05

2016年5月27日(金) 15:20 〜 16:20 第11会場 (産業振興センター 2階 セミナールームA)

[P-NV-05-5] 回復期脳卒中患者の半側空間無視における能動的注意と受動的注意の特性の変化

―3症例による予備的調査―

藤井慎太郎1,2, 生野公貴2, 中村潤二2, 高村優作1, 大松聡子1, 森岡周1, 河島則天3 (1.畿央大学大学院健康科学研究科神経リハビリテーション研究室, 2.医療法人友紘会西大和リハビリテーション病院リハビリテーション部, 3.国立障害者リハビリテーションセンター研究所運動機能系障害研究部神経筋機能障害研究室)

キーワード:脳卒中, 半側空間無視, 評価

【はじめに,目的】

近年,半側空間無視(Unilateral spatial neglect:USN)の症状を視覚情報処理における「能動的注意」と「受動的注意」の観点から把握することの重要性を示す報告が散見される。USNの評価方法として一般的に使用されるBehavior Inattention Test(BIT)は,対象者の能動的注意によって遂行される課題が殆どであり,受動的注意の要素を評価できない点で限界がある。また,2つの注意系の縦断的な変化は明らかでない。本研究では,USNを呈した回復期脳卒中患者3症例に対して,USNの回復過程における2つの注意系の特性の変化を調査することを目的とした。

【方法】

対象は初回脳卒中発症後に左USNを呈した3例である。症例1は右中大脳動脈領域脳梗塞発症後2か月経過した60代女性である。症例2は右中大脳動脈領域脳梗塞発症後5か月経過した70代女性である。症例3は後頭葉側頭葉領域脳梗塞後に出血性脳梗塞発症後2か月経過した80代女性である。初期評価時のBIT通常検査の点数は,症例1より31点,93点,72点であり,全例カットオフ値(131点)を大きく下回った。視覚的注意の評価として,河島ら(2012)によって開発された,PCディスプレイ上に配置した縦7列,横5行,計35個のオブジェクトをタッチ操作にて選択する課題を実施した。能動的注意を反映する能動探索課題として,任意順序によるオブジェクトの選択を実施し,中央を除く左右15個ずつの選択数を評価として用いた。受動的注意を反映する受動探索課題として,ランダムな順序で点滅するオブジェクトに反応しタッチするまでの反応時間(RT)を計測し,右側に対する左側RTの比を左右比として算出した。左右比の増加はUSNの増加を示す。評価期間は症例1より6か月,2か月,4か月であった。

【結果】

BIT通常検査の点数は最終評価時において症例1より97点,87点,123点と症例1,3にて向上を認めた。症例1は,能動探索課題では初期時に左側オブジェクトは10/15個のみの選択であり,最終時においては0/15個とさらに減少を認めた。受動探索課題では初期時の左右比は2.9であったが,最終時では1.8へと改善を認めた。症例2は,能動探索課題では症例1と同様に初期時7/15個,最終時0/15個と左側オブジェクトの選択数の低下を認めた。しかし,受動探索課題での左右比は初期時1.3,最終時1.5と初期より著明な左右差を認めなかった。症例3は,能動探索課題において初期時,最終時ともに左右15個ともに選択可能であった。受動探索課題では初期時の左右比は2.9であり,経過に伴う右側RTの改善から一時4.2まで増加したが,最終時は左側RTの改善も認め2.9となった。

【結論】

BITの評価からUSNを示す症例において,能動および受動探索課題で異なる特性,経過を呈することが確認できた。本研究で実施した能動的注意と受動的注意に着目した無視症状の経時的評価により,症例毎に異なる無視症状の把握や回復過程を明らかにすることができる可能性がある。