第51回日本理学療法学術大会

講演情報

一般演題ポスター

日本神経理学療法学会 一般演題ポスター
神経P27

2016年5月29日(日) 11:10 〜 12:10 第12会場 (産業振興センター 2階 体育実習室)

[P-NV-27-4] 視覚と体性感覚の統合を意図した介入の結果,把握動作における拇指-示指間開口幅に改善がみられた脳卒中右片麻痺症例

上田将吾, 高木泰宏, 村部義哉, 谷口芙紗子, 塚田遼, 加藤祐一 (認知神経リハビリテーション結ノ歩訪問看護ステーション)

キーワード:体性感覚, 把握動作, 片麻痺

【はじめに,目的】把握動作の制御には,対象の大きさに対応するオンライン制御と,記憶に基づくオフライン制御が存在(Goodale, 2011)し,把握動作では前頭頂間溝にて視覚と体性感覚の統合がなされる(Karl, 2013)。今回,左脳梗塞により右片麻痺を呈し,把握動作と書字動作に困難さを訴える症例を経験した。オフラインでの視覚と体性感覚の統合を意図した介入を実施した。結果,把握動作時の拇指-示指間開口幅が改善し,書字動作の速度が改善したため報告する。


【方法】対象は左脳梗塞により右片麻痺を呈し,発症後1年半が経過した60歳代の女性であり,日常生活動作,家事や車の運転は全て自立していた。Brunnstroms Recovery Stageは上肢VI,手指Vであった。手掌の触覚検査は10回法と10点法ともに10/10であった。各指の運動覚検査は10回法で10/10であった。安静時,各指の屈筋の筋緊張はModified Ashworth Scale(以下MAS)で0であったが,手指の自動運動後は2であった。把握動作は,拇指と示指の対立で8cmのブロックまで可能であったが,9cm以上は拇指-示指間開口幅が不足するために把握が困難であった。5周の螺旋模様を鉛筆でなぞる課題に1分48秒を要し,手指の屈筋に過剰な緊張が生じるために持ち直す回数は6回であった。課題として,あらかじめ視認した1cm間隔の5つのブロックに対し,閉眼にて他動で拇指-示指間開口幅を合わせ,どのブロックに合わせたかを回答するよう求めた。回答後,視覚的に正誤を確認した。開始当初の正答率は3~4/10であり,2cm間隔の認識は可能だが,1cm間隔の認識が困難であった。介入頻度は1回/週,介入時間は60分,介入期間は2ヶ月間,回数は8回であった。


【結果】課題では1cm間隔の認識が可能となり,正答率は9~10/10となった。手指のMASは自動運動後も0となった。拇指と示指の対立で10cmのブロックの把握が可能となった。螺旋模様をなぞる課題を42秒で完遂可能となり,持ち直す回数は1回であった。日常生活場面において,「名前とか住所を書くのが速くなった」との発言が得られた。


【結論】本症例は対象物に対する拇指-示指間開口幅の適切な制御が困難であり,把握動作時には手指の屈筋群に過剰な収縮がみられた。把握動作時の拇指-示指間開口幅の形成において,オンライン情報処理はオフライン情報処理によって調整される(castiello, 2005)。本症例では,課題を通して拇指-示指間開口幅をオフライン処理で調整するための内部モデルが形成されたと考える。結果,把握動作における拇指-示指間開口幅の制御が改善したと考える。また,書字動作時にオフラインでの制御が可能となることで,鉛筆の太さに対して拇指-示指間開口幅を適応させることが可能となり,書字動作の速度が向上したと考える。