第51回日本理学療法学術大会

講演情報

一般演題ポスター

日本支援工学理学療法学会 一般演題ポスター
工学P03

2016年5月28日(土) 10:30 〜 11:30 第11会場 (産業振興センター 2階 セミナールームA)

[P-SK-03-2] ロボットスーツHALよりも従来の理学療法の方が効果を示した片麻痺患者の一例

長田悠路, 海野竜志, 本島直之 (農協共済中伊豆リハビリテーションセンター)

キーワード:ロボットスーツHAL, 片麻痺患者, シングルケーススタディ

【はじめに】ロボットスーツHAL(以下HAL)は患者の生体電気信号に基づいて動作の中で麻痺筋を改善させることができると考えられており,片麻痺患者に対する先進的医療として導入している施設も少なくない。HALの効果を示す症例検討は多数あるが,その多くが従来の理学療法よりも効果的であったという報告である。しかし,臨床ではHALの効果にばらつきがあり,片麻痺患者に限って言えば,寧ろ理学療法士が患者の反応に合わせて治療した方が効果的である印象を受ける。今回,筆者の担当症例にHALを導入することとなったため,その効果を中立的な視点で分析したので報告する。


【方法】対象は心原性脳塞栓症により広範な側頭葉の病変を呈し,188病日経過した74歳男性である。Brunnstrom Stageは上肢II,手指I,下肢IIIであった。感覚は深部・表在軽度鈍麻で,麻痺側は全体的に低緊張,非麻痺側(肩関節周囲や膝関節周囲)は高緊張を呈していた。Trunk Control Testは71点であった。歩行はT杖を使用し,軽介助レベルであった。歩行の主問題は麻痺側下肢の振り出しにくさであった。介入は,通常の介入(A1期),HALによる介入(B期),通常の介入(A2期)の順で各期1週間行った。なお,A1期・A2期の通常の治療は主にボバース概念をもとにした治療を行い,姿勢コントロールに主眼を置き起立・歩行練習を実施した。B期では,当院HALチームのHALの操作に熟練したセラピストが起立とステップを中心とした介入を行った。毎日の治療後に10m歩行時間を計測し,できる限り速く歩くよう指示して2回計測した内,より速いデータを代表値とした。歩行速度の前日比の速度増減を百分率にて求め,各期の平均値を算出した。また,各期間の代表値の回帰直線を引き,回帰係数を比較した。


結果各期の平均速度増減率は,A1期で113.4%,B期で103.9%,A2期で101.2%であった。平均歩行速度はA1期で0.10 m/s,B期で0.16 m/s,A2期で0.17m/sであった。歩行速度の回帰直線の傾きはA1期で0.013,B期で0.001,A2期で0.008であった。本症例の感想としてHALは重くて動きにくいとの発言が聞かれた。


結論回帰直線の傾きの比較では,B期で回復が停滞しており,歩行速度に関してはHALよりも従来の方法がより効果的であったことが分かった。本症例は重度の片麻痺を呈しており,麻痺側下肢を振り出すために重心を非麻痺側後方へ移動する方法をとっていたが,本症例ではこれら代償的な動きをHALによって止められてしまうことで,動きにくさを訴えたと考えられる。また,本症例は非麻痺側の筋の過活動が生じやすく,それに伴い,より麻痺側の活動性が下がる特徴があった。よって,本症例のような代償動作の強いタイプにHALを使用する場合には,筋緊張の変化を丁寧に診ながら全身的な姿勢制御を学習させることが重要であると考える。