第51回日本理学療法学術大会

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一般演題ポスター

日本小児理学療法学会 一般演題ポスター
小児P01

Fri. May 27, 2016 11:50 AM - 12:50 PM 第12会場 (産業振興センター 2階 体育実習室)

[P-SN-01-3] ダウン症候群の発達遅滞と早発認知症における小脳の可塑性に関する研究

脳病理学的研究

高嶋美和1,2, 池田拓郎3, 高嶋幸男1,4 (1.柳川療育センター, 2.専門学校柳川リハビリテーション学院, 3.国際医療福祉大学理学療法学科, 4.国際医療福祉大学大学院)

Keywords:ダウン症候群, 小脳, PGP9.5

【はじめに,目的】

ダウン症候群(DS)は,乳児期から特徴的な顔貌と筋緊張低下があり,乳幼児期から学童期にかけ精神運動発達遅滞,さらに成人期に早発アルツハイマー型認知症が発症することで知られている。我々は,健常者とDSの剖検例で大脳皮質・白質の発達と加齢について,神経系と神経内分泌系に特異的なユビキチンカルボキシル末端加水分解酵素の一つであるProtein Gene Product 9.5(PGP9.5)抗体を用いて,免疫組織化学的に検討してきた(第45回日本理学療法学術大会,高嶋ら,2010)。しかし,DSの発達遅滞と退行の機序と可塑性は未だ明らかとされておらず,理学療法を含む適切な予防と治療法については不明な点が多い。DSでは,大脳皮質以外にも,小脳皮質にも小さな異形成があることが報告されている。今回は,DSの小脳の発達遅滞と加齢的退行について,形態学的な機序と可塑性を追求した。

【方法】

対象は,DS19例(在胎19週から63歳)の各年齢の剖検ヒト脳組織(小脳)とした。24時間以内に病理解剖がなされ,ホルマリン固定後,パラフィン包埋した脳組織ブロックの薄切切片をPGP9.5にてペルオキシダーゼ染色し,免疫組織化学的に発現を観察し,検討した。なお,病変を認めない剖検ヒト脳組織(正常例)22例(在胎13週から75歳)を比較対照群とした。分析は小脳皮質標本についてPGP9.5陽性神経細胞の割合を観察した。PGP9.5陽性細胞の割合によって,陽性細胞が0個であるものを陰性(-),数個であるものを軽度陽性(±),陽性細胞の割合が50%未満のものを陽性(+),50%以上のものを陽性(++),さらに50%以上で強い染色性を示したものを強陽性(+++)とした。

【結果】

DS群小脳皮質プルキンエ細胞層のPGP9.5陽性細胞は,在胎20週で陽性(+~++)であり,正常発達群にみられるような胎児期初期の強陽性(+++)は認められなかった。乳児期以降は,正常発達群と差がなかった。

【結論】

胎児期の小脳皮質プルキンエ細胞層ではPGP9.5の発現が正常発達群に比し減弱していたことは,小脳の形成異常とプルキンエ細胞の発達の遅れと関連することが示唆された。胎児初期におけるプルキンエ細胞のPGP9.5の減弱は,乳児期におこる筋緊張低下に関与することが示唆されるが,その後は成人期まで正常発群と明らかな差がないことを考えると,DS患者に対する理学療法は,聴覚刺激や視覚刺激などの外的要因を含めた方がより効果的である可能性が考えられる。また,本研究結果は発達遅滞,アルツハイマー型認知症など,成人期以降の機能低下を考慮した理学療法を含む適切な予防と治療法を追求する上でも活用できると考える。