第51回日本理学療法学術大会

講演情報

一般演題ポスター

日本小児理学療法学会 一般演題ポスター
小児P03

2016年5月28日(土) 11:40 〜 12:40 第12会場 (産業振興センター 2階 体育実習室)

[P-SN-03-3] 下肢筋に対するボツリヌス療法と理学療法を併用し日常生活場面において下肢の支持が得られやすくなった就学前児の理学療法経過

福原陽 (大阪発達総合療育センター)

キーワード:荷重練習, 運動学習, 姿勢制御

【はじめに 目的】今回,入院にてA型ボツリヌス毒素(以下BTX)を施注し,その後の集中的なリハビリテーション(以下リハ)により座位の安定性向上と移乗での介助協力動作につながった就学前児を経験した。BTX後の理学療法(以下PT)経過と継時的に実施した評価結果に,機能的変化に至った要因を考察した。

【方法】症例は5歳男児,3C症候群疑い,GMFCSレベルV相当。先天性胸椎部左凸側彎症と水頭症を合併。側彎に対し動的体幹装具(以下プレーリー)を日中装着。BTX施注の検討も含め坐位の安定と介助立位・歩行の獲得目的で約3ヵ月間入院し,週5~6回PTを実施。坐位では左凸側彎による左後方への重心偏移に対し体幹の屈曲と右短縮,左側優位の下肢内転内旋を伴う引き込みを強め,右殿部が拳上し保持が困難であった。足部は触ると引き込み,不快な表情を見せた。立位でも左下肢優位に引き上げていた。そこで,主治医と相談し入院2週目,両長内転筋・薄筋・半膜様筋にBTXを施注。その後のPTでは,体幹の安定性を保証した中で徐々に足底へ段階的に荷重して下肢の支持性を賦活し,足底・坐骨を支持基底面とした抗重力活動を促した。病棟生活では立位台や歩行器,外的な支えを減らした坐位設定を導入し,足底への荷重機会や足底支持した姿勢調節機会を提供し積み重ねた。評価は,BTX前後にROM-T,Modified Ashworth Scale(以下MAS),X線画像,入退院時にカナダ作業遂行測定(以下COPM)を行った。

【結果】坐位で足底接地した姿勢保持が可能となり上肢活動が向上した。介助歩行でも下肢が支持に働き交互ステップが可能になった。MASは股関節外旋・外転・膝関節伸展2→1となり痙縮が軽減した。ROM-TはBTX前後で左股関節伸展-10°→0°,外転5°→25°,外旋25°→60°,膝窩角70°→20°に改善,左右差が軽減した。X線画像はプレーリー装着下坐位でCobb角に変化はなかったが,体幹偏位(TS)3.5cm→0.5cm,骨盤傾斜(PO)17°→0.2°となり非対称が軽減した。COPMは「坐位の安定性向上」が3→6点,「介助立位や歩行での下肢の支持性向上」が2→5点と母親の満足度が向上した。

【結論】今回の症例は,先天性側彎症による非対称と共に抗重力活動に乏しく不安定で,より非対称を強めることで足底接地をすることなく,体幹・下肢を屈曲固定する姿勢制御(保持)の誤学習が進行していた。BTX施注はMAS,ROM-Tの結果より施注筋の痙縮の軽減と股・膝関節の可動性が拡大し,坐位では足底接地が得やすくなり,足底で支持した姿勢制御の学習のための準備に役立った。また,入院での理学療法と生活場面での姿勢設定を通して,足底への荷重と支持への適応性拡大,下肢の支持性と共に体幹の安定性向上が相乗的に作用し,介助立位においても足底で支持した姿勢制御の学習につなげることができたと考えた。