第51回日本理学療法学術大会

講演情報

一般演題ポスター

日本予防理学療法学会 一般演題ポスター
予防P14

2016年5月28日(土) 16:00 〜 17:00 第11会場 (産業振興センター 2階 セミナールームA)

[P-YB-14-2] 高齢者に対する温熱刺激と下肢運動による皮膚温度変化に関する研究

江口真司1, 倉田淳平1, 髙山卓也1, 平松広義1, 北口里奈2, 西村眞理3, 河野奈美1 (1.大阪電気通信大学医療福祉工学部, 2.医療法人蒼龍会井上病院, 3.医療法人蒼龍会介護老人保健施設ひまわり)

キーワード:高齢者, 温熱刺激, 運動

【目的】

下肢血流は加齢と共に低下し,冷え・しびれ等を訴える高齢者は少なくない。また,長時間の座位では,骨格筋の収縮による筋ポンプ作用が十分に機能せず,下肢の循環障害が発生する可能性があると報告され,循環改善を図ることは重要である。循環障害への治療手段として物理療法などがあるが,介護老人保健施設では,物理療法機器に対しての設置基準がなく十分対応しているとはいえない。そこで今回,我々が開発した温熱刺激と運動が同時に可能な運動器具を用いて皮膚温度変化について検討した。

【方法】

研究の目的と方法を説明し同意が得られた介護老人保健施設入所者29名,男性7名,女性22名を対象とした。方法は,椅子座位にて60℃のお湯を充填した下肢運動器具に裸足を乗せた状態で,10分間足を置くのみ(以下,温熱のみ)と10分間運動器具を前後に動かす温熱刺激と運動(以下,運動あり)の2課題とし,1週間の間隔を空けて実施した。食事による体温の影響を除くため食後1時間以上空けて実施した。測定項目は,皮膚温度(下腿前面/後面,足背部),前脛骨筋の筋硬度,下腿最大周径と全身状態を把握するために血圧,脈拍,動脈血酸素飽和度とし,各課題実施前後で計測した。

統計処理は,SPSS Stastics 21にて,対応のあるt-検定とWilcoxonの符号付き順位検定を行った。また,皮膚温度は課題前後の変化率にて検討した。有意水準を0.5%とした。

【結果】

対象の平均年齢(SD)は84.7(8.0)歳,BMI 20.7(3.1)kg/m2,HDS-R21.5(6.5)点であった。10分間の各課題を中止する者はなく,課題前後に全身状態の明らかな変動は認められなかった。下腿皮膚温度の変化率(SD)は,前面は温熱のみ-0.04(0.09),運動あり0.03(0.06),後面は温熱のみ-0.02(0.04),運動あり0.01(0.02)と運動ありでは温熱のみに比べ有意に下腿皮膚温が運動後に上昇し,足背の皮膚温度の変化率も温熱のみ-0.002(0.04),運動あり0.02(0.04)と同様の結果であった。下腿最大周径は,温熱のみ課題前28.6(2.6)cm,課題後28.8(2.7)cm,運動あり課題前28.7(2.6)cm,課題後29.0(2.6)cmと運動の有無に関わらず課題後に有意に増加した。筋硬度は,温熱のみ課題前29.0(5.6)tone,課題後28.6(5.1)tone,運動あり課題前30.7(6.0)tone,課題後29.6(5.8)toneと運動ありで有意に低下した。

【結論】

介護老人保健施設に入所している高齢者29名を対象とし,開発した温熱刺激と運動が同時に可能な運動器具を用いて,温熱のみと運動ありの2条件を10分間実施し,その効果について検討した。足底からの温熱のみでは下腿皮膚温度は低下傾向を示し,温熱刺激と運動を同時に加えることで下腿と足背の皮膚温度上昇と,筋硬度の低下がみられた。以上のことからデイサービス等で座る時間が長い高齢者に対し,本運動器具による運動は下肢の循環維持・改善を目的とし提供可能と考える。今後は浮腫に対する検討を行う予定である。