第52回日本理学療法学術大会

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日本運動器理学療法学会 » ポスター発表

[P-MT-22] ポスター(運動器)P22

2017年5月12日(金) 15:30 〜 16:30 ポスター会場 (国際展示場 展示ホール8)

日本運動器理学療法学会

[P-MT-22-3] 大腿神経麻痺に伴う大腿四頭筋の筋出力低下に対しロボットスーツHAL単関節タイプおよび随意運動介助型電気刺激装置IVESが有効であった一症例

小谷 尚也1, 後藤 恭輔1, 鎌田 聡1, 山本 卓明2, 井上 亨3, 塩田 悦仁1 (1.福岡大学病院リハビリテーション部, 2.福岡大学病院整形外科, 3.福岡大学病院脳神経外科)

キーワード:大腿神経麻痺, ロボットスーツHAL単関節タイプ, 随意運動介助型電気刺激装置IVES

【目的】大腿神経麻痺は人工股関節全置換術(THA),特に前方アプローチにおいて稀に起こりうる合併症である。Simmonsらは440例のTHA術後患者のうち,10例(2.3%)に大腿神経麻痺を認めたとし,大腿四頭筋徒手筋力テスト(MMT)が4+~5レベルへ回復するまでに要した期間は最短で1.5ヶ月,診断時のMMTが0であった患者が最も期間を要し11ヶ月であったとしている。THA術後の大腿神経麻痺は患者にとって重大な問題となるが,これに対するリハビリテーションの報告は極めて少なく,治療に難渋することも少なくない。今回,THA術後に大腿神経麻痺を合併した症例に対し,ロボットスーツHAL単関節タイプ(HAL-SJ)および随意運動介助型電気刺激装置IVESを用いた運動を実施し,大腿神経麻痺の主症状の一つである大腿四頭筋の筋力低下に対し良好な回復を得たためここに報告する。

【症例】THA(前方アプローチ)を施行した50歳代の女性。初期評価にて大腿四頭筋の筋力低下(MMT0)と大腿~下腿にかけての表在覚鈍麻を呈しており,医師より大腿神経麻痺の診断を受けた。




【方法】大腿神経麻痺発症直後の段階では,IVESを使用し治療的電気刺激(TES)にて強制的に筋収縮を促した。術後1週時点で随意的な筋収縮を認めたため,IVESをパワーアシストモードに変更し,ランプにて筋収縮を確認しながら大腿四頭筋セッティングを行った。この際,腹臥位にて足部を接地した閉鎖性運動連鎖(CKC)での運動を実施した。また,同時期よりHAL-SJを使用し,モニターにて生体電位波形を確認しながら端座位での膝伸展運動を開始した。MMTが3レベルに達した時点でHAL-SJを終了し,IVESの運動を端座位でのセラバンドを抵抗として使用した膝伸展運動に変更した。また,膝伸展筋力を定量化するためハンドヘルドダイナモメーター(HHD)を使用して経時的に計測し,状態に応じてセラバンドの硬さを変更した。


【結果】術後2週の時点でわずかな膝伸展運動が可能となり,術後4週でMMT2レベル,術後6週でMMT3レベル,術後9週でMMT4レベル(非術側比54%),術後12週でMMT5レベル(非術側比97%)へと改善を認めた。


【結論】今回,HAL-SJおよびIVESを使用した膝伸展運動を積極的に実施したところ,過去の報告と比較し良好な回復を認めた。その要因として,両者に共通する点としては,随意的筋収縮をモニターやランプにて視覚化できたことであると考える。それに加え,HAL-SJはロボットが適切なアシストを行うことで,「運動企図」と「実際の動き」という正のフィードバックが起こり,皮質からの運動指令と介助された随意運動による末梢からの体性感覚入力が促通され,適切な運動学習がなされたと考える。また,IVESに関しては,随意収縮が全く得られない状況でもTESを実施可能であったこと,足底接地腹臥位や立位などのCKCの姿勢で実施できたこと,抵抗運動にも用いることができたことが有効であったと考える。