The 52st Congress of Japanese Society of Physical Therapy

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日本神経理学療法学会 » ポスター発表

[P-NV-12] ポスター(神経)P12

Fri. May 12, 2017 3:30 PM - 4:30 PM ポスター会場 (国際展示場 展示ホール8)

日本神経理学療法学会

[P-NV-12-5] 重度感覚障害を呈した脳卒中片麻痺患者に対する一次体性感覚野への連合性対刺激法(Paired associative stimulation,PAS)を用いた効果

柏田 夏子1, 湯川 喜裕1, 寺田 萌1, 市村 幸盛1, 富永 孝紀2, 中村 一仁3 (1.医療法人穂翔会村田病院リハビリテーション部, 2.株式会社たか翔, 3.医療法人穂翔会村田病院脳神経外科)

Keywords:連合性対刺激法(Paired associative stimulation,PAS), 感覚障害, 体性感覚誘発電位(Somatosensory evoked potentials,SEP)

【はじめに,目的】

脳卒中片麻痺患者では位置覚障害の有無が麻痺側上肢の運動機能に影響を及ぼすと報告されており(柳瀬,2010),位置覚の向上は運動機能回復に重要である。また,位置覚障害を反映する方法として体性感覚誘発電位(SEP)があり,近年,連合性対刺激法(PAS)を用いて一次体性感覚野(SI)の可塑性を誘導することで,30分間はSEP振幅値の増大が認められている(Alexander, 2005)。しかし,脳卒中片麻痺患者に対するSI-PASの実施効果は明らかにされておらず,本研究は重度感覚障害を呈する脳卒中片麻痺患者に,感覚と運動機能の改善を図る目的でPASを実施し,上肢機能評価とSEPを用いて効果を検討した。


【方法】

右被殻・視床混合型出血症例であった。発症110日目のFugl-Meyer assessmentの上肢項目は60点,簡易上肢機能検査(STEF)は26点,母指・肘関節の位置覚は脱失であり協調性低下を認めた。正中神経を刺激しC3'とC4'からSEPを導出した結果,非麻痺側SEPは100msまでに3つの陰性ピーク(N1,N2,N3)を認め,麻痺側はN1とN3にわずかなピークを認めた。SI-PASは,誘発反応刺激装置を用いて左手関節部の正中神経に電気刺激を加え,光学系ナビゲーションシステムを使用し同定した右SIに,磁気刺激装置を用いて経頭蓋磁気刺激(TMS)を与えた。電気刺激・TMSともに刺激強度は短母指外転筋収縮閾値の1.2倍とした。麻痺側N1は21.5msに認めたため,電気刺激とTMSの刺激間隔は23.5msに設定し,0.1Hzで30分間実施した。課題は1日40分の上肢運動療法を7日間実施し,1,4,7日目の運動療法前にPASを行った。SEPの測定は①1日目PAS実施前②1日目PAS実施直後③課題終了の翌日に実施した。課題前後で感覚検査とSTEFを実施した。


【結果】

SEPの結果は,N1振幅値は①2.12μV,②3.05μV,③2.05μV,N3振幅値は①5.88μV,②7.45μV,③6.11μV,N3の潜時は①101.4ms,②95.5ms,③97.2msであった。課題後の母指の触覚・位置覚は脱失,肘関節の位置覚は全可動域動かすと運動方向の認識が可能となった。STEFは30点で肘関節屈伸運動の協調性に改善を認めた。


【結論】

本症例は,PAS直後にN1振幅値の増大を認めたが,持続的な効果はなく,SIの可塑的変化は一時的であった。しかし,課題後において肘関節の位置覚と,STEFの運動スピードに向上を認めた。健常成人では80ms付近に認められるN3は2次体性感覚野の活動と考えられており,随意運動前に増大することが報告されている(Kida, 2006)。本症例においても,遅延していたN3の潜時は課題後もPAS直後の潜時を維持していた。以上のことから,SI-PASを用いて一次的に体性感覚野を賦活させた状態で運動療法を実施することで,頭頂連合野での感覚情報処理の効率化を図り,運動時の学習効果を高める可能性が示唆された。