[P-RS-02-4] 胸腺摘出術患者における術前6分間歩行距離は術後離床遅延を予測する
キーワード:離床遅延, 6分間歩行距離, 胸部外科
【はじめに,目的】
胸腺摘出術は,胸腺腫および重症筋無力症に対する治療法の一つである。胸腺腫患者の約1/3に重症筋無力症が合併するとされ,先行研究では重症筋無力症合併と胸腺摘出術後死亡率との関連が報告されている。胸部外科術後の理学療法においては,術後合併症の予防と身体機能の回復を主たる目的として術後早期から離床を行うことが推奨されている。術後の離床遅延は術後合併症や在院期間の延長につながることから,離床遅延に関連する要因を明らかにすることが求められている。そこで,本研究は胸腺摘出術患者において,術後離床遅延を予測する術前術中因子について検討した。
【方法】
2013年4月から2015年6月の期間に当院にて胸腺摘出術および周術期理学療法を施行した57例を対象とし,後方視的に検討した。術翌日に病棟歩行可能であった患者を早期離床群,歩行不可能であった患者を離床遅延群とした。評価指標は併存疾患,術前呼吸機能,術前6分間歩行距離(6MWD),手術時間,麻酔時間,出血量,術中水分バランス,術式,硬膜外麻酔使用の有無とした。各評価指標について,2群間をMann-Whitney U検定およびカイ二乗検定を用いて比較した。また,離床遅延の予測因子をロジスティック回帰分析で検討した。結果は平均値±標準偏差で示し,統計学的解析では有意水準を危険率0.05未満とした。
【結果】
対象の年齢は59±12歳,BMIは23.0±3.7 kg/m2であり,男性33例,女性24例であった。重症筋無力症を有していた患者は13例であった。早期離床群は31例,離床遅延群は26例であった。離床遅延群の病棟歩行開始日は,術後2日目が22例,術後3日目が4例であった。術後肺炎は離床遅延した1例のみに生じた。入院期間中には重症筋無力症クリーゼは発症しなかった。
離床遅延群の術前6MWD(460±96 m)は,早期離床群(519±99 m)と比較して有意に低値を示した。重症筋無力症の有無の割合は両群間で差を認めず,その他の術前術中因子についても有意な差を認めなった。術前術中因子のうち,離床遅延の有無との関連が危険率0.2未満であった因子(高血圧,術前化学放射線療法,%肺活量,%1秒量,術前6MWD)を独立変数として抽出し,離床遅延の有無を従属変数として,ステップワイズ法を用いてロジスティック回帰分析を行った。ロジスティック回帰分析の結果,術前6MWDのみが離床遅延の独立した危険因子として抽出された。離床遅延と術前6MWDのReceiver Operating Characteristic曲線から算出された離床遅延のカットオフ値は498 mであった。
【結論】胸腺摘出術後における離床遅延には術前6MWDが関連した。6MWDは術前評価指標の一つとして有用であり,術前6MWDが低値を示す患者においては術後に離床が遅延する可能性が推測されるため,術前後の介入方法を検討する必要があることが示唆された。
胸腺摘出術は,胸腺腫および重症筋無力症に対する治療法の一つである。胸腺腫患者の約1/3に重症筋無力症が合併するとされ,先行研究では重症筋無力症合併と胸腺摘出術後死亡率との関連が報告されている。胸部外科術後の理学療法においては,術後合併症の予防と身体機能の回復を主たる目的として術後早期から離床を行うことが推奨されている。術後の離床遅延は術後合併症や在院期間の延長につながることから,離床遅延に関連する要因を明らかにすることが求められている。そこで,本研究は胸腺摘出術患者において,術後離床遅延を予測する術前術中因子について検討した。
【方法】
2013年4月から2015年6月の期間に当院にて胸腺摘出術および周術期理学療法を施行した57例を対象とし,後方視的に検討した。術翌日に病棟歩行可能であった患者を早期離床群,歩行不可能であった患者を離床遅延群とした。評価指標は併存疾患,術前呼吸機能,術前6分間歩行距離(6MWD),手術時間,麻酔時間,出血量,術中水分バランス,術式,硬膜外麻酔使用の有無とした。各評価指標について,2群間をMann-Whitney U検定およびカイ二乗検定を用いて比較した。また,離床遅延の予測因子をロジスティック回帰分析で検討した。結果は平均値±標準偏差で示し,統計学的解析では有意水準を危険率0.05未満とした。
【結果】
対象の年齢は59±12歳,BMIは23.0±3.7 kg/m2であり,男性33例,女性24例であった。重症筋無力症を有していた患者は13例であった。早期離床群は31例,離床遅延群は26例であった。離床遅延群の病棟歩行開始日は,術後2日目が22例,術後3日目が4例であった。術後肺炎は離床遅延した1例のみに生じた。入院期間中には重症筋無力症クリーゼは発症しなかった。
離床遅延群の術前6MWD(460±96 m)は,早期離床群(519±99 m)と比較して有意に低値を示した。重症筋無力症の有無の割合は両群間で差を認めず,その他の術前術中因子についても有意な差を認めなった。術前術中因子のうち,離床遅延の有無との関連が危険率0.2未満であった因子(高血圧,術前化学放射線療法,%肺活量,%1秒量,術前6MWD)を独立変数として抽出し,離床遅延の有無を従属変数として,ステップワイズ法を用いてロジスティック回帰分析を行った。ロジスティック回帰分析の結果,術前6MWDのみが離床遅延の独立した危険因子として抽出された。離床遅延と術前6MWDのReceiver Operating Characteristic曲線から算出された離床遅延のカットオフ値は498 mであった。
【結論】胸腺摘出術後における離床遅延には術前6MWDが関連した。6MWDは術前評価指標の一つとして有用であり,術前6MWDが低値を示す患者においては術後に離床が遅延する可能性が推測されるため,術前後の介入方法を検討する必要があることが示唆された。