第52回日本理学療法学術大会

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日本スポーツ理学療法学会 » ポスター発表

[P-SP-10] ポスター(スポーツ)P10

2017年5月13日(土) 15:30 〜 16:30 ポスター会場 (国際展示場 展示ホール8)

日本スポーツ理学療法学会

[P-SP-10-4] スポーツクライマーの自己管理の実態と全身性傷害との関連性について

樋口 拓哉1,5, 加藤 勝行2,5, 石垣 直輝3,5, 六角 智之4,5 (1.初富保健病院, 2.仙台青葉学院短期大学, 3.船橋整形外科病院, 4.千葉市立青葉病院, 5.日本クライミング医科学研究会)

キーワード:スポーツクライミング, コンディショニング・ケア, 傷害予防

はじめに。目的

スポーツクライミングは,2020年東京オリンピック種目となり注目を得ている競技である。近年クライミング愛好者(クライマー)人口が増え,国内約60万人となっている。クライマーの手指傷害の先行報告は散見されるものの,全身の傷害調査に関する報告とコンディショニングの実態との関連を調査した報告は見られない。そこで本研究の目的は,スポーツクライマーにおけるコンディショニングの実態と傷害との関連性を検討し,傷害予防とその傷害への意識を促すことである。

方法

全国72ヶ所のクライミングジム,クラブ利用者1638名に傷害調査アンケートを実施し,有効な回答が得られた789名を対象とした。調査項目は傷害有無と傷害部位,コンディショニング(アイシング,テーピング,鍼灸按摩,ストレッチ,ウォーミングアップ,クーリングダウン)実施の有無とした。検討項目は傷害発生割合とその部位,各調査項目を受傷経験群と非受傷群に分類し,2群間での比較後,有意差を認めた項目を独立変数,傷害の有無を従属変数としたロジスティック回帰分析を行った。さらに交絡因子の性別,年齢,身長,体重,BMI,経験年数,月間練習時間をふまえて再度検定を実施。有意確率5%。

結果

789名中,傷害を有する例は432名であった。傷害部位の内訳は,手指129件,足関節51件,手関節43件,肩関節31件,肘関節26件,その他156件であり,上肢帯は全体の58.6%であった。コンディショニングの実施率(受傷経験群/非受傷群)におけるアイシング(30.2/15.4%),テーピング(42.7/23.0%),鍼灸按摩(12.5/3.1%)で有意差を認め,ストレッチ(75.9/76.2%),ウォーミングアップ(69.4/67.5%),クーリングダウン(18.6/18.8%)は両群間に有意差を認めなかった。ロジスティック回帰分析の結果,アイシング(オッズ比=1.906,p値=0.001),テーピング(オッズ比=2.225,p値=0.000),鍼灸按摩(オッズ比=4.006,p値=0.000)が有意に従属変数を表した。交絡因子をふまえ再度検定結果は,アイシング(オッズ比=2.094,p値=0.001),テーピング(オッズ比=2.311,p値=0.000),鍼灸按摩(オッズ比=3.802,p値=0.000),経験年数(オッズ比=1.250,p値=0.000),月間練習時間(オッズ比=1.017,p値=0.000)が抽出された。

考察

本研究結果から上肢帯の傷害が半数以上を占めた。傷害を有するクライマーはアイシング,テーピング,鍼灸按摩を利用していることから既存傷害へのコンディショニング・ケア(自己管理)に対する意識が高いことが推察された。しかし,予防的視点(クーリングダウン実施等)は欠落していることが示唆された。一方で傷害を有しない者は,練習時間が比較的短い傾向で,経験の少ないビギナークライマーと分類できたことで,傷害に対する注意喚起を重点的に実施するべきと推察された。今後は各競技の傷害分類の特徴と競技力に応じたトレーニング,予防的視点に立った自己管理の啓発が必要と考えられる。