第52回日本理学療法学術大会

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日本予防理学療法学会 » ポスター発表

[P-YB-02] ポスター(予防)P02

2017年5月12日(金) 15:30 〜 16:30 ポスター会場 (国際展示場 展示ホール8)

日本予防理学療法学会

[P-YB-02-3] 8週間の水中呼吸運動が呼吸筋力に与える影響
陸上呼吸運動との比較

山科 吉弘1, 青山 宏樹1, 堀 寛史1, 森田 恵美子1, 阪上 奈巳1, 田平 一行2 (1.藍野大学医療保健学部理学療法学科, 2.畿央大学大学院健康科学研究科)

キーワード:水中呼吸運動, 吸気負荷呼吸, 呼吸筋力

【はじめに,目的】

近年,水中運動は水の性質(浮力,抵抗,水圧など)により関節負担を軽減できることや,四肢の筋力向上を促すことができることから,中高年者をはじめ各世代で健康増進の手段として注目されている。また,水中では吸気時つまり胸郭拡張時に抵抗が加わるため,吸気筋力の向上に繋がると考えられており,我々も当学会において,水深が鎖骨レベルでの水中呼吸運動は陸上呼吸運動と比べて吸気筋疲労を増大させることを報告してきた。しかし,長期間の水中運動が本当に陸上運動よりも吸気筋力を向上できるか否かは検証しておらず明らかになっていない。そこで,今回8週間の水中呼吸運動が呼吸筋力に与える影響について陸上呼吸運動と比較したので報告する。


【方法】

被験者は,喫煙歴がなく呼吸・循環器疾患のない健常成人男性29名(年齢22.4±1.4歳)とし,ランダムに陸上運動群(14名)・水中運動群(15名)に分けた。全被験者に対して安静時の吸気筋力(maximum inspiratory pressure:PImax)および呼気筋力(maximum expiratory pressure:PEmax)を口腔内圧計(Minato AAM337)にて陸上座位姿勢で測定し,ベースライン値(BL値)とした。次に,陸上運動群は陸上座位姿勢にて,水中運動群は鎖骨レベルの水深となるように水中トレッドミル(Hokkodenki KRT-2500P)に入水(水温32度)した座位姿勢で,吸気負荷呼吸を実施した。なお吸気負荷呼吸はPImaxのBL値の30%負荷に設定した吸気負荷装置(Threshold IMT, PHILIPS, USA)を利用し,メトロノーム音に合わせ1分間に呼吸回数15回の頻度で1日15分間行なった。このプログラムを週に4回かつ8週間実施した。PImax・PEmaxは1週毎に測定し8週後まで計測した。そしてBL値を基準として週毎の呼吸筋力の変化率を算出した。


【結果】

PImaxはBL時と比較し5週間以降の運動後は陸上運動群および水中運動群において有意に上昇を認めた(p<0.05)。しかし,PImaxの上昇率は両群間においてすべての期間で有意な差を認めなかった。PEmaxは両群においてBL時と比べて8週間の運動後に有意な差を認めず,またその変化率にも有意な差はなかった。


【結論】

陸上運動群および水中運動群ともに吸気筋力が上昇したことから,吸気負荷呼吸は陸上や水中環境に関わらず,吸気筋力の向上に有効であることが示唆された。しかし,8週間の運動において両群間で吸気筋力の上昇率に差はなかった。これは,水深が鎖骨レベルでは胸郭全体に水圧がかかっていると思われるが,健常成人においては吸気筋力を上昇させ得るほどの負荷ではないと考えられる。また,今回の研究では定位置での水中運動であったが,今後は水中歩行などより水圧が胸郭に加わりやすい運動負荷を検討する必要性がある。

一方,呼気筋に関しては,陸上運動群および水中運動群の両群において改善を認めなかった。これは,今回の研究では吸気筋にのみ負荷を加えていることや,水中環境では水圧が呼気を補助したと思われ呼気筋には効果がなかったと思われる。