日本昆虫学会第84回大会・第68回日本応用動物昆虫学会大会 合同大会

講演情報

口頭発表

[A] 共生微生物

2024年3月31日(日) 09:00 〜 11:45 A会場 (橘)

10:15 〜 10:30

[A-40] カメムシ科昆虫における後脚を用いた共生細菌の新奇な垂直伝達行動

◯森山 実1、深津 武馬1 (1. 産総研)

カメムシ下目に属する昆虫の多くは、中腸後部に形成された共生器官の中に生存に必須な相利共生細菌を保持している。共生細菌の垂直伝達をおこなう種では、産卵の際に共生細菌を封入した物質を卵の側に分泌し、孵化幼虫がそれを口から取り込むことによって子へと受け継がれることが知られる。カメムシ科昆虫の場合、卵表面を覆う粘着物質中に共生細菌が含まれると考えられていた。最近、私たちはチャバネアオカメムシのメス成虫が、卵を産下するたびに後脚ふ節で卵に触れるという奇妙な行動をおこなうことを発見した。また、産卵直前には排泄口からの分泌物を後脚ふ節に予め付着させる行動をとることも観察された。そこで、免疫染色や蛍光タンパク質組み換え発現、電子顕微鏡等の可視化技法を用い、この分泌物中に共生細菌が含まれており、上記の行動シークエンスによって共生細菌が卵側面に局所的に塗布されることを明らかにした。さらに、さまざまなカメムシ類における産卵行動の普遍性を調査したところ、この後脚をもちいた垂直伝達行動はカメムシ科昆虫においてのみ観察された。以上の結果に加え、カメムシ類でみられる多様な垂直伝達の様式や、後脚を用いた類似の産卵関連行動を紹介しながら、新奇な垂直伝達行動の進化について考察する。