第17回日本薬局学会学術総会

講演情報

パネルディスカッション

パネルディスカッション
「認知症の口腔ケアを考慮した在宅治療」

2023年10月9日(月) 14:20 〜 15:50 第1会場 (1号館2階 センチュリーホール)

ファシリテーター:玄 景華(朝日大学 教授,)日比野 泰章(たんぽぽ薬局株式会社 執行役員 薬局事業本部 副本部長 経営企画室 室長)

[PD-1] 認知症と口腔ケアー薬剤師として学んでおきたい大切なことー

玄 景華 (朝日大学 教授)

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 我が国の認知症の高齢者数は、2025年には高齢者5人に1人が罹患すると推測され、決して珍しい病気ではない。認知症とは「記憶障害のほかに、失語、失行、失認、実行機能の障害が1つ以上加わり、その結果、社会生活あるいは職業上に明かに支障をきたし、かっての能力レベルの明らかな低下がみられる状態」とされている。認知症は病名ではなく、さまざまな症状が出現する症候群と捉えられ、認知症の最大の発症要因は加齢によるものである。
 認知症は次の4つが代表的なものである。アルツハイマー型認知症は、異常タンパク質が脳に沈着し脳が萎縮することで引き起こされ、認知症者数の半数以上を占める。血管性認知症は、脳梗塞や脳出血が原因で脳細胞が破壊されることで引き起こされる。レビー小体型認知症は、脳にレビー小体というタンパク質が出現し神経障害が引き起こされる。前頭側頭葉変性症は、前頭葉や側頭葉の神経細胞が変性や脱落により発症し、徐々に進行する。認知症発症後の平均寿命はそれぞれであるが、誤嚥性肺炎や老衰などにより死亡することが多い。社会の高齢化とともに長寿化の進行により、要介護やさまざまな支援を必要とする社会環境が求められる。
 一方で、口腔機能は「しゃべる(構音)」「食べる(摂食嚥下)」「息を吸う(呼吸)」など人が生きていくうえで重要な役割を担っている。う蝕や歯周病の歯科疾患の進行や口腔機能の低下などの口腔環境の変化が全身に及ぼす影響は、誤嚥性肺炎、糖尿病、循環器疾患や慢性腎臓病、骨粗鬆症、悪性新生物(がん)、早産・低体重児出産などが挙げられる。さらに口腔環境の悪化が認知症の発症や認知機能低下に影響することも判明している。
 口腔ケアは障害児・者や要介護高齢者に必須のケアの一つである。歯科疾患の予防のための器質的(清掃的)口腔ケアと機能的口腔ケアを導入することで、上記の口腔機能の維持・改善が期待される。特に認知症の薬物療法やさまざまな行動療法が開発されているが、いずれも現時点では補助的な対応である。そのために誤嚥性肺炎の予防効果が高い口腔ケアの導入は、認知症の予後・改善に大きな役割を果たす。
 本シンポジウムでは、それぞれの専門職から口腔ケアの実践を通じて認知症高齢者のQOLの維持・向上につながる講演がなされます。薬剤師の皆さまには、在宅を含めた社会環境の整備や多職種連携の必要性などを学んでいただければ幸いです。