第21回日本蛋白質科学会年会

講演情報

ポスター賞フラッシュトーク

[1FT-2] 計算科学・情報科学 (1P-28~1P-47)

2021年6月16日(水) 14:00 〜 14:30 チャンネル2

座長:木下 賢吾(東北大学)、奥村 久士(生命創成探究センター)

[1P-30*] ヒトL型アミノ酸トランスポーター1と阻害剤JPH203の結合構造予測

吉田 夏海1, 浴本 亨1, 山根 努2, 鈴木 登紀子3, 遠藤 仁3, 池口 満徳1,2 (1.横市大・生命医, 2.理研MIH, 3.ジェイファーマ株式会社)

L型アミノ酸トランスポーター1 (LAT1)は大型中性アミノ酸とそれら誘導体を交換輸送する。LAT1はCD98hcとヘテロダイマーを形成することで発現および輸送活性を有する。LAT1は腫瘍細胞型のアミノ酸トランスポーターとしてがん治療の創薬標的となっている。LAT1阻害剤JPH203がジェイファーマ(株)によって開発され臨床試験進行中であるが、LAT1との結合構造は解明されておらず、その作用発現の機序は不明である。そこで、計算科学の手法を用いてLAT1-CD98hc複合体と阻害剤JPH203の結合構造予測を行った。ドッキングシミュレーションによってLAT1-CD98hc複合体とJPH203の結合構造が得られた。この結合ポーズでは、JPH203は閉じた構造であり、これまでに推測されているファーマコフォアとも合致していた。膜水系を構築し、分子動力学シミュレーションを1 μs実施したところ、結合ポーズは500 nsほど安定であった。その後、JPH203は開いた構造へ変化し、基質結合サイトからずれていったが、結合ポケットには留まっており阻害能を期待させる結合ポーズとなった。JPH203自体のエネルギーは、MD中および量子計算のどちらにおいても、ファーマコフォアを満たす閉構造の方が安定であった。ポーズ変化時に水分子がJPH203近くに侵入してきており、相互作用の変化が生じていたため、水分子との相互作用がポーズ変化の原因ではないかと推測される。