[1P-30*] ヒトL型アミノ酸トランスポーター1と阻害剤JPH203の結合構造予測
L型アミノ酸トランスポーター1 (LAT1)は大型中性アミノ酸とそれら誘導体を交換輸送する。LAT1はCD98hcとヘテロダイマーを形成することで発現および輸送活性を有する。LAT1は腫瘍細胞型のアミノ酸トランスポーターとしてがん治療の創薬標的となっている。LAT1阻害剤JPH203がジェイファーマ(株)によって開発され臨床試験進行中であるが、LAT1との結合構造は解明されておらず、その作用発現の機序は不明である。そこで、計算科学の手法を用いてLAT1-CD98hc複合体と阻害剤JPH203の結合構造予測を行った。ドッキングシミュレーションによってLAT1-CD98hc複合体とJPH203の結合構造が得られた。この結合ポーズでは、JPH203は閉じた構造であり、これまでに推測されているファーマコフォアとも合致していた。膜水系を構築し、分子動力学シミュレーションを1 μs実施したところ、結合ポーズは500 nsほど安定であった。その後、JPH203は開いた構造へ変化し、基質結合サイトからずれていったが、結合ポケットには留まっており阻害能を期待させる結合ポーズとなった。JPH203自体のエネルギーは、MD中および量子計算のどちらにおいても、ファーマコフォアを満たす閉構造の方が安定であった。ポーズ変化時に水分子がJPH203近くに侵入してきており、相互作用の変化が生じていたため、水分子との相互作用がポーズ変化の原因ではないかと推測される。