第21回日本蛋白質科学会年会

講演情報

ポスターセッション

[1P-1] ポスター1(1P-01ー1P-48)

2021年6月16日(水) 14:45 〜 16:45 ポスター会場1

[1P-32*] 粗視化・全原子MDシミュレーションによる転写開始複合体におけるDNA転写バブルの検討

篠 元輝, 高田 彰二 (京大・理・生物科学)

近年、極低温電子顕微鏡や1分子実験等により、転写開始過程の分子機構が盛んに研究されている。真核生物におけるmRNA転写は、DNA上にRNAポリメラーゼII (Pol II) と基本転写因子が集合する転写開始前複合体の形成とDNA開裂に起因する。複合体形成については多くの知見が得られているが、Pol II内部で起こるDNA開裂の分子機構、特にほどけたDNAがどのような挙動をしているかは詳細には判明していない。本研究ではアミノ酸を1粒子、ヌクレオチドを3粒子とする粗視化表現を用いた分子動力学シミュレーションを行った。複合体の構造モデルとして、酵母のDNA開裂前にあたるClosed Complex (CC)、DNA開裂後のOpen Complex (OC)、および転写開始直後のInitially Transcribing Complex (ITC) の電子顕微鏡構造を用いた。DNA開裂を容易に引き起こすべく、DNAにミスマッチ領域を導入して計算したところ、ミスマッチ領域のDNA螺旋がほどけ、鋳型鎖DNAがPol IIの活性中心へ降りる様子が観察できた。その後ミスマッチ領域を元の配列に戻し再度計算したところ、平均8 bpの転写bubbleをもつOCと、続けて平均13 bpの転写bubbleをもつITCが得られた。OCからITCの過程で、Pol IIサブユニットRPB2にあるfork loop 1の開閉が鋳型鎖DNAの積み込みに影響を及ぼすことがわかり、途中に現れる状態を「中間体」と名付けた。最後に、OC・中間体・ITCの粗視化モデルを全原子モデルに変換し、全原子MDシミュレーションにより構造緩和させ、DNA転写バブルの各構造に関する知見を得た。