第21回日本蛋白質科学会年会

講演情報

ポスター賞フラッシュトーク

[2FT-1] 物性・フォールディング (2P-45~2P-60)

2021年6月17日(木) 14:00 〜 14:30 チャンネル1

座長:相沢 智康(北海道大学)、齋尾 智英(徳島大学)

[2P-55*] ラマン分光法を用いた単一液滴のラベルフリー定量:ALS関連タンパク質FUS LCのLLPSへの応用

横澤 公平, 柴田 大輝, 梶本 真司, 中林 孝和 (東北大院・薬)

【目的】タンパク質の濃厚液滴が生じる液液相分離 (LLPS) は,酵素反応の調節や神経変性疾患の発症など様々な生体反応との関連が指摘されている。LLPS研究の更なる発展のためには,LLPSの様々な物理量と生理機能との相関を明らかにする必要があり,液滴を形成されたままの状態でラベルフリーで定量測定する方法の開発が望まれている。本研究では,顕微ラマンを用いてタンパク質の液滴を定量的に評価する方法を提案し,液滴内のタンパク質濃度,状態についての情報を得た。
【結果・考察】ALS関連タンパク質FUSのLCドメインについて,緩衝溶液中で液滴を作製し,共焦点ラマン顕微鏡で液滴内外のラマンスペクトルを測定した。液滴のスペクトルでは,3400 cm-1前後に水のO-H伸縮振動,2940 cm-1にFUS LCのC-H伸縮振動バンドが観測された。この水のラマンバンドを強度標準とすることで,C-H伸縮振動バンドの強度から液滴内のタンパク質濃度をラベルフリーで定量する手法を開発した。濃度既知の均一なFUS LC溶液を調製し,C-H伸縮振動バンドの強度とFUS LCの濃度の検量線を作製して,単一液滴内のFUS LC濃度を決定した。この方法では液滴内のタンパク質濃度の微小変化を検出することができ,例えばpHを7.5から8.5に上げると液滴内のFUS LC濃度が27から25 mMに減少することが分かった。液滴内の濃度は,例えばFUS LC分子同士が触れ合い始める濃度 (重なり濃度) との比較が可能であり,FUS LCが液滴内では圧縮された状態で存在していることが提案できる。