[2P-74*] ペプチドリンカー改変による一本鎖抗体の高機能化
一本鎖抗体(scFv)は、抗体の可変領域であるVHおよびVLドメインを柔軟なペプチドリンカーで連結した分子である。大腸菌による生産が可能、遺伝子工学的改変が容易であるという利点がある。一方で、scFvには実用化に向けて凝集性、保存性、抗原結合性の3つの課題がある。これまでに、インテイン反応を用いてscFvのN末端とC末端を連結し、環状化することで、凝集性を抑制する手法を構築した。また、環状scFvのリンカー部位に存在する遊離したチオール基を介してPEG化することで、凍結乾燥後の保存性を向上する技術を開発した。しかし、抗原結合部位が二価のIgGに比べてscFvは一価であるため抗原結合性 (avidity) が劣る。本研究では、ヒト腫瘍壊死因子hTNFαを標的とした環状scFvについて、ペプチドリンカーの改変による高機能化を試みた。その結果、多価の抗原結合部位を有する環状scFvの作製に成功した。作製した多価環状scFvについて、示差走査蛍光測定による熱変性実験を行ったところ、協同的な熱変性曲線が得られた。熱変性温度は、一価の環状scFvと同程度であり、多価抗体化による熱安定性の低下は見られなかった。次に、抗原結合活性についてELISAによる評価を行ったところ、一価の環状scFvに比べて、多価の環状scFvでは抗原親和性が10倍以上に向上することを確認した。また、動的光散乱測定により、凝集性が抑えられていることを明らかにした。