第21回日本蛋白質科学会年会

講演情報

ワークショップ

[WS1] 分子夾雑の蛋白質科学における新展開

2021年6月16日(水) 18:00 〜 20:30 チャンネル1

オーガナイザー:浜地 格(京都大学)、王子田 彰夫(九州大学)

共催:新学術領域 分子夾雑の生命化学

18:53 〜 19:17

[WS1-03] 単色蛍光タンパク質型FLIMセンサーを用いたATPの時空間定量イメージング

新井 敏1, サルケア サティア1, 北口 哲也2 (1.金沢大・WPIナノ研, 2.東京工業大学・科学技術創成研究院)

シグナル分子や代謝産物の濃度変化に応じて蛍光強度が変化する輝度変化型の蛍光センサーが世界中で開発されたおかげで、細胞内の分子濃度の定性的な変化を追跡することが随分と可能になってきた。一方、一連の蛍光センサーで得られる蛍光輝度値の実験結果を元に、異なる研究者の間で標的分子の濃度を定量的に議論することは未だに極めて困難な課題である。本発表では、生体分子の濃度の定量解析を担保できる、蛍光寿命を用いた新しいイメージング手法を紹介する。蛍光寿命は、励起光強度やドリフト、またセンサー濃度などに依存しない頑強な物理量である。しかしながら、この明確な利点にも関わらず、蛍光寿命を用いたイメージング手法はあまり普及していない。これは、標的分子に対する高い特異性を有し、且つ、その濃度情報を蛍光寿命に変換できる蛍光センサーがほとんど存在しないことに1つの大きな原因がある。我々は、エネルギー代謝の最重要分子の1つであるアデノシン三リン酸(ATP)に着目し、ATPに特異的に結合するタンパク質を、適切なペプチドリンカーを介して蛍光タンパク質に挿入して、ATPの結合前後で蛍光寿命が大きく変化する蛍光 ATP センサー(qMaLioffG)の開発に成功した。更に、このセンサーを細胞内に導入し、異なる細胞種や、同じ細胞内の異なる場所のATP濃度を定量解析できることを示した。また、生体分子の濃度の定量計測に留まらず、積極的にその濃度を制御する新しい技術に関しても、併せて、本発表で紹介したい。